しかしエラーは起きたのです。完成間近の25建てタワーの最上階の部屋で金曜日の夕方に水漏れ、そしてそれが月曜日朝まで気が付かなかったという痛恨のミスでした。(意図的な犯罪説はありました。)保険は下りますが、キャッシュフローが廻らないため、知り合いの商業不動産ローン会社から緊急融資枠数億円分を取り付け細い一本の紐を渡る形で完成に至りました。あの時は生きた心地はしなかったです。
日鉄の黄金株に私が懸念を示してきた理由は日鉄がいつまでも今の日鉄である保証はないのです。一方、コミットメントは長期間に渡るもので、業界や会社がどのような状態にあろうともそれを継続しなくてはいけないのは予見できないリスクであり、それは私が身をもって感じることであります。
報道ではポジティブな意見が多いのは机上の話では素晴らしいに決まっているからです。ですが、海外の事業はそんなに甘くはないのです。故に私がたまに話を持ちだすブリヂストンによるファイヤーストン買収は日本企業による海外事業買収で歴史に残る苦労であり、同じころに同じ北米にいた者として痛いほどわかるのです。それはのちに同社の社長になる石橋秀一氏が現地で大活躍した故の今であります。
またサントリーによるビーム買収も非常に苦労したケースです。あの場合、新浪剛史氏が10年に渡る死闘とも言えるべく熱意と努力で勝ち得たものでした。
こう見ると海外買収では必ずとてつもない苦労を伴うことが多く、それを切り抜けるのは圧倒的な情熱を持つ個人の才能にかかってくるとも言えるのです。その背景は海外では経営戦略はトップの指導力が全てであり、日本側がその人に全権委任できるかにかかっているとも言えます。
言い換えると日本企業が今まで海外事業買収で数多くのヘタを打ったのは海外事業の戦略と判断を本社が握り、現地の人に権限を与えなかったことがあるし、一方、権限を持って現地で八面六臂の働きが出来る人材もなかなかいないことが理由だと思います。