コウテイペンギンは、海氷の上でつがいとなり、たった一つの卵を懸命に育てます。

しかしこの営みは、海氷が8〜9カ月間安定して存在していることが前提です。

ところが近年、氷が途中で崩れる事態が頻発し、ヒナが海に落下して全滅するケースも報告されています。

2022年には観測史上最少の春の海氷面積が記録され、複数のコロニーで繁殖が完全に失敗しました。

特にベルリングスハウゼン海地域では、ある年には成鳥すら1羽も確認されなかったのです。

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Credit: canva

さらに問題を複雑にしているのが「気候変動の副作用」とも言える現象です。

急な降雨、暴風、雪解け水によるヒナの濡れ、海氷の不安定化にともなう捕食者(シャチ)の進出――これらの複数のリスクが複合的にペンギンを追い詰めています。

そして見逃せないのが「群れのサイズ」です。

コウテイペンギンは冬季の極寒や嵐を「集団で身を寄せ合う」ことで乗り越えます。

ところが個体数が減れば群れは小さくなり、保温力も下がります。

つまり、減少がさらなる減少を招く“悪循環”が始まっているのです。

この調査は南極全体の約4分の1を対象にしたもので、まだ残る多くの地域が未調査です。

しかし、調査地の減少傾向が他地域にも広がっていれば、コウテイペンギンはIUCNの「危急種(Vulnerable)」に分類される水準に達していると考えられます。

そして、このままのペースで温室効果ガスの排出が続けば、21世紀末にはコウテイペンギンのほとんどが絶滅するという予測すら現実味を帯びてきているのです。

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参考文献

Emperor penguin populations in Antarctica declining faster than thought
https://www.bas.ac.uk/media-post/emperor-penguin-populations-in-antarctica-declining-faster-than-thought/