「人類は100万人規模で火星に住むことになる」

 そう豪語するテック界の巨人、イーロン・マスク。その壮大な夢の実現に向けた前哨戦が、今、米テキサスの小さな町で始まっている。しかし、そこで繰り広げられているのは輝かしい未来とはほど遠い、一方的な「立ち退き」という現実だった。

火星への夢、地上での悪夢

 テキサス州南東の片隅に、かつてボカ・チカ・ビレッジと呼ばれる静かな海辺のコミュニティがあった。しかし、マスク率いる宇宙企業SpaceXのロケット発射施設が建設されてから、町の運命は一変する。

 今年5月、この町は住民投票の末、SpaceXの企業城下町となり、「スターベース」と改名された。約束されたのは、1500万ドル規模のショッピングセンター建設や新たな住宅開発といった、甘い未来。住民の多くがその提案を受け入れた。しかし、現実にはロケット打ち上げのたびに安全上の理由でビーチは封鎖され、かつての穏やかなリゾート地としての面影は失われつつあった。

 そして先週、住民たちに一枚のメモが突きつけられた。それは、マスクが描くユートピアの現実を、残酷なまでに示すものだった。

「立ち退き勧告」―ユートピア建設の邪魔者は去れ

「スターベース市は、テキサス州法に基づき、以下のことを通知する義務があります:当市は公聴会を開催し、あなたが現在所有する土地の利用権を継続できるかどうかを決定します」

 住民に送りつけられたこの通知は、事実上の「立ち退き勧告」に他ならない。メモは「市の成長ビジョンを反映し、重要な経済の原動力を保護し、公共の安全を確保し、緑地を保全するため」と、その目的を美辞麗句で飾っている。しかし、要するに、マスクが計画する巨大工業団地の邪魔になる住民は、この町から出て行け、というわけだ。

 住民が意見を提出できる期限は、わずか数日。SpaceXの新たな都市計画が明らかにされてから、たった3日後に公聴会が開かれるという、あまりに一方的なスケジュールだ。

イーロン・マスクの“ユートピア”計画、買収した町で早くも住民と衝突の画像2
(画像=画像は「The Courier Mail」より)