まずはこの不安定さが、ブラジル人監督の信頼を損ね、アンチェロッティ監督のような外国人監督への期待を高めていると言える。

欧州では数々の栄光を手にしながらも、65歳にして初めて海を渡る決断をした新指揮官アンチェロッティ監督は、3月26日のW杯予選でアルゼンチン代表に1-4の屈辱的な大敗を喫した後に解任されたドリヴァウ・ジュニオール前監督の後任に指名されたが、この報は驚きをもって世界中に伝えられた。

何しろ指揮するのは「国民全員が代表監督」と言われるほどのサッカー王国ブラジルだ。多くのビッグクラブを率いてきたアンチェロッティ監督と言えども、その重圧は計り知れないものだろう。


フラメンゴ(ブラジル)写真:Getty Images

ブラジル国内でも外国人監督ブーム

ブラジル国内各クラブでは、特に2019年にフラメンゴを率いたポルトガル人のジョルジェ・ジェズス監督が、リベルタドーレス杯とブラジル全国選手権の2冠を成し遂げ、外国人監督のニーズが高まった。

これに対し、ブラジル人監督への信頼が相対的に低下。2022年カタールW杯での敗退後、ブラジル国内での調査では外国人監督支持が41%に上昇し、ブラジル人監督を望む声は48%に留まった。この流れが自国出身監督の評価を下げる一因となっている。

ちなみにジェズス監督は、今年4月30日の2024/25シーズンACLE(AFCチャンピオンズリーグエリート)準決勝でアル・アハリ・サウジに敗れ、アル・ヒラルの監督の座を追われたばかりだが、ブラジル代表ドリヴァウ前監督の後任候補として名前が挙がった優秀な指揮官で、未だ代表監督待望論が多い。


ブラジル代表 ドリヴァウ・ジュニオール前監督 写真:Getty Images

戦術トレンドへの遅れ、育成環境

ブラジル人監督は、「ジンガ」と呼ばれるブラジルサッカーの伝統的なや攻撃的スタイルに根ざした指導が多かった。一方、現代サッカーではデータを重視した戦術的多様性が求められている。欧州のビッグクラブでは、最新戦術を採用した指揮官が主流となり、ブラジル人監督の多くはこうしたトレンドへのアップデートで後手を踏んでいる。欧州で活躍するブラジル人監督が少なくなったのも、これが原因と思われる。