ロンドンと北海をつなぐテムズ川は、数多くの小説や映画、ドラマにも登場する歴史的かつ象徴的な川です。

そんなテムズ川の河岸で発見された1体の女性の遺体には、残酷で悲しい過去が刻まれていました。

この遺体の正体を解き明かしたのは、カナダのトロント大学(UofT)の研究チームです。

彼らは20年以上前に発見されていた人骨を分析し、この女性が公開処刑の被害者であった可能性を突き止めました。

今回の研究成果は、2025年5月12日付の『World Archaeology』誌に掲載されました。

目次

  • テムズ川で発見された中世初期の遺骨は「女性が激しい殴打で死亡した」ことを示す
  • 女性は処刑され「見せしめ」にされていた

テムズ川で発見された中世初期の遺骨は「女性が激しい殴打で死亡した」ことを示す

この衝撃的な発見の発端は、1991年にさかのぼります。

テムズ川の河岸で、女性の遺骨が発見されたのです。

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現代のテムズ川 / Credit:Canva

頭部から足元にかけて、遺体の下にはアシのマットが敷かれ、体の上と下を木の樹皮で覆うように配置されていました。

さらに、顔、骨盤、膝には苔のパッドが置かれており、死体を「展示するように」整えた形跡が明確に残っていました。

この遺体は、そのままロンドン博物館に移送・保管されましたが、分析が行われることはなく、20年以上も放置されていました。

それがようやく、トロント大学の研究チームによって、包括的な法医学・考古学的分析が行われたのです。

分析の結果、女性は西暦680年から810年の間に死亡したと分かりました。

死亡時の年齢は28歳から40歳の間と推定されます。

歯や骨の同位体分析により、彼女はロンドン周辺で生まれ育った「地元の女性」であったことも明らかになりました。

また、幼少期に一度、食生活の変化あるいは飢餓状態を経験したことが示唆されています。

5歳以降、骨に含まれる窒素同位体の値が増加していたのです。