例えば、ソシエダが久保を満額の6,000万ユーロで売却した場合、移籍金から当初の600万ユーロを差し引いた5,400万ユーロ(5,400万ユーロ、約89億円)がキャピタルゲインとなり、その50%(2,700万ユーロ、約44.5億円)がマドリードに支払われる。

マドリードは、久保の保有権そのものを手放しているものの、将来的な利益を確保するための権利を保持している。具体的にはキャピタルゲインの50%受け取り権に加え、買い戻し条項(マドリードが久保を再獲得する権利)を保持している可能性が高い。この条項は公式には明かされていないが、欧州のビッグクラブが若手選手を放出する際にこうした条項を設けるのは一般的なことだ。

この条項により、マドリードは久保のステップアップ移籍による経済的な恩恵を受けつつ、彼の成長を間接的に見守る立場にある。しかし同時に久保の移籍話を複雑にしている側面もある。一方、久保の移籍先として、マドリードの天敵であるバルセロナやアトレティコ・マドリードの名前も挙がったが、マドリードはこれに口を挟む権利はない。


久保建英 写真:Getty Images

保有権の構造による高額な移籍金

久保の移籍をめぐる「壁」には、上述の保有権の構造とそれに付随する条件が大きく影響する。保有権の構造による高額な移籍金が、久保の獲得を狙うクラブにとって最初の障壁となる。

ソシエダが設定した久保の移籍金6,000万ユーロ。ビッグクラブにとっては手が届く範囲だが、中堅クラブにとっては大きなハードルだ。今オフ、トッテナム・ホットスパーが5,000万ユーロ(約82.5億円)のオファーを提示したものの、ソシエダはこれを拒否。移籍金の満額支払いを要求したことで破談となり、アーセナルやリバプールも手を引いた。

ソシエダのアペリバイ会長は久保の移籍金について、1ユーロも値切りに応じる気はないのだろう。バイエルン・ミュンヘンも獲得に前向きな姿勢を見せているが、用意していると報じられた移籍金は3,000万ユーロから4,000万ユーロ。これでは交渉のテーブルにも付けないのではないだろうか。