ここで登場するのが、相対性理論に量子論の視点を重ねたときだけ姿を現すプランクパワーという概念です。

プランクパワーは光速cや重力定数G といった普遍定数だけで組み立てられる自然界の最大出力で、その値はおよそ 3.63 ×10⁵²ワットに達します(※条件(γ=1)により値はこの半分ほどになるものの、それでも圧倒的と言えます)。

身近なたとえに置き換えれば、地球が1年で受け取る太陽エネルギーを、ほんの0.03秒で放出する量に匹敵します。

この結果は、「速度」と同じように「出力」にも上限を設定する“宇宙の仕切り”がある可能性を示しています。

仮に宇宙がそれ以上のエネルギーを一気に吐き出そうとすると、重力場の数式は解を失い、時空には“コースティク”と呼ばれる焦点特異点が発生して反古典的な物理学の描写が崩壊してしまいます。

ブレーカーを越えると配電盤が焼き切れる住宅の電気回路を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。

光速が「移動の速さ」を封じ込める壁だとすれば、プランクパワーは「エネルギー放出の速さ」を封じ込める壁――つまりパワー版・光速制限に相当するのです。

観測値がいまだこの上限の三桁以上手前にとどまっている事実は、裏を返せば「宇宙はまだブレーカーを落としていない」ことを示しています。

しかし、その“ブレーカー”が本当に存在するかどうかはまだ明らかになっていません。

一方で、現代物理学のもう一つの柱である量子論では、エネルギーや運動量など物理量は連続的ではなく「量子(最小単位)」に分かれていることが知られています。

電子が原子内でとり得るエネルギーが離散的な値に限られるように、光もまた光子と呼ばれるエネルギー粒子(量子)の集まりとして扱われます。

同様に重力についても、それを司る時空そのものを微細な単位に区切って考える「量子重力理論」によって、重力場にも量子的な制限が現れる可能性があります。