●この記事のポイント ・兵庫県尼崎市にオープンした阪神タイガースの二軍球場、野球施設として初めて「ZEB認証」を取得 ・断熱性能の向上のためにエネルギー消費を抑える建築資材を使用 ・エネルギー消費量が少ないZEBは、ライフラインが途絶した場合でも建物機能を低下させない強靭性を持つ

 今年3月、兵庫県尼崎市にオープンしたゼロカーボンベースボールパーク。市民向けの軟式野球場が併設されたこの公園内には、阪神タイガースの二軍球場である「日鉄鋼板SGLスタジアム尼崎」がある。このスタジアムは野球施設として初めて、エネルギー効率に優れている建築物の評価制度である「ZEB認証」(※)を取得した(同じ敷地内にある室内練習場・選手寮を含む。今回は、同施設の設計を担当した久米設計 大阪支社の佐藤行彦氏、および環境技術本部の横山大毅ダイレクターの両名に、本プロジェクトの取組みや脱炭社会の実現に向けた今後の取り組みについて話を聞いた。

※ZEB認証:Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称。建物で消費する年間エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物の認証制度。

●目次

──どういったきっかけでカーボンニュートラルを実現する野球場を建設するプロジェクトが始まったのでしょうか。

元々、当社は九州の筑後にある福岡ソフトバンクホークスの二軍球場を手掛けていました。その情報が伝わってタイガースの親会社である阪神電鉄から声をかけていただきました。

プロジェクトの開始当初はZEB認証取得の予定はありませんでした。ところがプロジェクトが始まった以降の2022年に、環境省が2050年のカーボンニュートラル実現に向けて「脱炭素先行地域」の募集を地方公共団体向けに開始したのです。推進のための交付金を受けられることもあり、尼崎市からの提案を受けて新たにZEB認証取得に向けた活動が始まりました。阪神電鉄の社内でもカーボンニュートラルに対する関心が高かったので、積極的に取り組んでいくことになりました。

──野球施設として初めてZEB認証を取得するために、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか。

建築物には断熱性能の向上のためにエネルギー消費を抑える建築資材を使用しています。例えば今回の室内練習場は非常に大きな施設ですが、そこにはサンドイッチパネルという断熱材を挟んだ外壁材を使いました。さらに建物の大きさを有効活用するために、屋根の全面に太陽光発電パネルを設置しました。その他にも、屋根を二重構造にして断熱材を挟んだり、特殊な金属膜をコーティングしたLow-E複層ガラスを採用したりして建物内に極力熱を入れないような工夫をしています。

設備面ではLED照明や人感センサーなどの調光設備を採用して、つけっぱなしにならないようにして電力を抑える等の工夫をしています。他にも高効率型の空調機器や換気機器を積極的に採用しました。全体の割合としては設備面のウェートが大きいですね。