こうした中、発足間もないメルツ政権について、ドイツ公共放送ARDは「ドイツを英仏などと共に欧州の心臓として機能させることに成功した」と評価した。かつてのメルケル元首相が強い指導力を発揮して欧州を牽引したように、再び欧州の中心として強い存在感を示すことが出来るようになるのか、メルツ氏のこれからの手腕が大いに試されることになるだろう。
また、メルツ氏は、ウクライナ情勢についても触れ、「米欧がウクライナに供与する長射程兵器に射程制限はない」と明言した。メルツ氏はかねてから、ショルツ前首相がロシアを警戒して拒み続けてきた長射程巡航ミサイル「タウルス」(射程約500km)の供与に前向きな姿勢を示している。
総力戦体制をとるNATO諸国
ロシアに対して軍備を固めつつあるのは、ドイツだけではない。1949年のNATO創設以降、主要メンバーの一員として中核的な役割を務めてきたデンマークのポールセン国防相は「ロシアが予想以上に早く軍備を増強し、3~5年以内にNATO加盟国を攻撃する可能性がある」との情報を踏まえ、「デンマークに対する直接的な脅威はないが、加盟国を不安定にしようとするハイブリッド攻撃にNATOが直面する可能性があり、デンマークは軍事投資を加速させる必要がある」と訴えた。
ドイツのピストリウス国防相も「ロシアが5~8年以内にNATOを攻撃する可能性に備えるべき」とポールセン氏を支持した。 また、英国は今後、米豪との安全保障枠組みAUKUS(オーカス)の一環として新たな攻撃型原潜12隻を建造し、2030年代以降に現行の7隻と入れ替える予定だ。さらに核弾頭に150億ポンド(約2兆9,000億円)を投資して、核戦力の増強を図る。ちなみにAUKUSには、日本は重要な技術パートナーとして関与することになっている。
東西冷戦の崩壊以降、欧州はロシアとの経済的な結びつきを強めてきた。だが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧州はロシアとの関係を見直し、現在、欧州とロシアの関係は冷戦後最大の緊張状態にあると言えるだろう。