完全にオフィス街に変貌してしまった渋谷駅前

 東急によれば、30年度に渋谷駅および渋谷の東西南北を地上およびデッキ階で結ぶ多層な歩行者ネットワークが誕生し、渋谷駅およびその周辺のアクセス性が飛躍的に向上し、「巡り歩いて楽しい“駅まち一体開発”」が実現されるというが、この渋谷駅街区計画はどう評価できるのか。不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏はいう。

「現在の渋谷駅とその周辺は未整備でカオスと呼べる状態なので、歩行者デッキや通路が整備されて人の動線が整理されるというのは大きな期待感があります。一方、完全にオフィス街に変貌してしまった渋谷駅前を、商業施設である渋谷スクランブルスクエアにうまく組み入れるということが果たして本当にできるのか、ということも感じます。一度商圏を新宿三丁目や池袋に手放してしまった渋谷が、渋谷スクランブルスクエアの中央棟・西棟のオープンによって再び商業の街に復権できるかという点が注目されます。

 渋谷駅周辺のビルはIT系企業のテナントで埋め尽くされ、ビジネスパーソン以外の若者、高校生や中学生は新宿や大久保のほうへ移動してしまいましたが、渋谷フクラスや渋谷ヒカリエ、Shibuya Sakura Stage(サクラステージ)など渋谷駅周辺のビルの商業フロアは集客に苦しんでいるといわれています。渋谷駅の駅上にできるこのスクランブルスクエアの中央棟・西棟は現段階の公表情報を見る限り、大部分が商業施設になるようですが、東急として商業施設というものに対しどのような考え方を持っており、どういう姿を体現しようとしているのかがポイントになると思っています」

麻布台ヒルズとの共通点

 全てが完成する9年後の2034年から先の人々のライフスタイルも考慮すべき要素だという。

「スカイデッキや広場・公園を整備して“にぎわい”を創出するということですが、全てが完成する9年後の2034年以降も、都心のきらびやかなオフィスで働いて、きらびやかな商業施設でお買い物をするというライフスタイルが人々の間で主流になっているのかというと、なかなかそういう未来は描きにくいという印象もあります。商業施設部分の集客に苦労しているといわれている麻布台ヒルズの拡大版のようなものにしか見えないという印象も感じざるを得ません。渋谷駅と周辺のビルを通路でつなげたとして、そこに人々が滞留・回遊してお買い物をしたり楽しむということが、果たして現実的な未来としてあるのでしょうか。人々がここで佇んだり、くつろいだり、自然に人が集まってきて街自体を楽しむための仕掛けが、現段階ではあまり感じられません。

 歩行者が駅の東側から西側に簡単に移動できますとか、ハチ公広場にスムーズに降りられますというのは、今より大きく改善するので良いことではありますが、単に便利になるだけという言い方もできるでしょう。極めて人工的な仕掛けで勝負しているので、麻布台ヒルズなどの商業施設をすごく快適だと感じて頻繁に利用する人たちにとっては、良い場所になるかもしれませんが、2034年という未来に多くの人が集まって賑わう場所になるのかといわれれば、なかなか難しい気もします」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=牧野知弘/オラガ総研代表取締役)