国民年金だけで支給額が月額10万円以下の人は、図のように氷河期世代の1974年生まれで39%で、高度成長期より減った。女性就業率の上昇で、氷河期世代以降の年金は多くなるのだ。
図2(時事通信)
底上げの本当の理由は「100年安心」のはずの公的年金が20年で破綻し、所得代替率50%という年金官僚の大事な一線を切ってしまうことである。この所得代替率は、分母が1人なのに分子は2人(夫と妻)で、おまけに分母は手取りだから増税すると上がる無意味な数字である。
生産年齢人口の減少で増税の負担は重くなるもう一つ泉氏のいう「年金財政に投入されている国庫負担の総額は現在、年13.5兆円ですが、この額は今後のピーク時(2040年)でも13.7兆円で、現在と今後もほぼ変わらない」というのも長妻氏と同じだ。
しかし2040年の生産年齢人口は6000万人まで減少する。これは今の7300万人から2割も少ない。つまり税の総額が同じでも、現役世代ひとり当たりの負担は2割増えるのだ。今のままなら年金支給額の減少とともに国庫負担も減るので、現役世代の機会損失はこれより大きい。
泉氏の話も長妻氏の話も、年金官僚の詐欺的なレトリックの受け売りである。特に重要なのは「底上げで氷河期世代を救う」という話が嘘だということである。本当のねらいは「100年安心」という制度設計が崩れた体面を取りつくろうために、サラリーマンの積立金を横取りすることだ。
昨年の出生数は史上初めて70万人を切り、少子高齢化は加速して現役世代や子供の負担はますます重くなる(図4)。年金官僚の体面のために国民年金という破綻したネズミ講を延命すると、現役世代の負担はどんどん重くなる。
図4
それを防ぐには保険という擬制をやめ、最低所得保障の制度設計を考え直す必要がある。破綻を糊塗するために厚生年金を流用する今回の法案は、現役世代の税負担を増やすだけである。附則になっている年金流用の開始は2029年なので、今国会で急いで成立させる必要もない。臨時国会で仕切り直し、45年化も含めて検討すべきだ。