●この記事のポイント ・「儲からない産業」といわれ、一時は撤退する企業が相次いでいた防衛産業が、ここ数年で「儲かる産業」に変貌 ・防衛装備庁が発注先企業の利益額の算定方式を変え、最大15%まで付与するかたちに変更 ・防衛産業で特に成長性が高まっている領域はドローン・宇宙・AI
これまで「儲からない産業」といわれ、一時は撤退する企業が相次いでいた防衛産業だが、ここ数年で「儲かる産業」に変貌しているという。防衛省から直接受注する「プライム企業」と呼ばれる防衛大手3社は防衛関連事業単独での業績を公表していないが、三菱重工業の2024年度の航空・防衛・宇宙セグメントの事業利益は前期比272億円増の999億円、川崎重工業の航空宇宙システムセグメントは同558億円で前期の赤字から黒字転換、IHIの航空・宇宙・防衛は同1227億円で前期の赤字から黒字転換。三菱重工業と防衛省の契約金額は年間1兆円以上とみられており、IHIの航空・宇宙・防衛事業の営業利益率は22.1%に上る。24~25年にかけて三菱重工の株価が5倍になるなど、防衛関連事業の利益率改善が防衛関連企業の株価を押し上げているとの見方もあるが、背景には何があるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
## 防衛装備庁が利益額の算定方式を変更政府は23~27年度の「防衛力整備計画」で事業費について前計画の2倍超に増額したことを受けて、防衛関連各社の売上は上昇傾向にある。機動戦闘車、水上艦艇、潜水艦、水中・艦載機器、戦闘機、地対空誘導弾システム、空対艦誘導弾などを手掛ける三菱重工業は「抜本的な防衛力強化という防衛省の方針のもと、需要増や採算性の改善が期待できる」としている。IHIは航空・宇宙・防衛事業の30年度の売上収益を、23年度の約2倍にあたる8000億円に引き上げ、営業利益率を15%程度にするという目標を掲げている。
ここ数年、防衛関連事業が一転して適切な水準の利益を出せるようになった要因は何か。松井証券のシニアマーケットアナリスト・窪田朋一郎氏はいう。
「これまで防衛省が企業に発注する金額は原価計算方式が採用されており、標準利益率が一律で8%と設定されていましたが、部品や原材料が値上がりすると利益が食い潰されてしまうという状況が生まれ、企業側の低利益につながっていました。これが大きく見直されたのがウクライナ戦争が起こった22年で、このような状況だと防衛産業が成長せず、国の防衛力を高めることができないということで、防衛装備庁が利益額の算定方式を変え、最大15%まで付与するかたちにしました。利益率にメリハリをつけて、企業がコスト削減や品質向上に取り組んだ場合にはインセンティブを与えるようにもしました」
事業として採算が合わない状況が続いたこともあり、一時期は防衛関連事業から撤退する動きが広まった。たとえば、19年にはコマツが軽装甲機動車から、20年にはダイセルがパイロットの緊急脱出装置から、21年には住友重機械工業が陸上自衛隊向け機関銃からの撤退を表明した。
「利益が出ないと企業に撤退されて装備品を製造できなくなり、国内で防衛産業が育たないということになります。政府の政策が防衛産業をきちんと育てようという方向に変更され、岸田政権が防衛費の増額を決めて予算措置を取ったことも大きいでしょう」(窪田氏)