今後の展望と海外展開

――直近で社会実装していく具体的なイメージはありますか。

大岡 私たちは現在、地元の自治体・山梨大学医学部・複数の大手企業と連携し、オミックス情報を活用した介護・医療費の最適化に関する実証実験を進めています。具体的には、自治体の住民を対象に経時的なオミックス検査、さらにIoTデバイスやTaohealthアプリを導入することで、対象住民のあらゆる健康データを網羅的に蓄積・統合します。これによって、対象住民全員の健康・代謝状態をデジタル空間上で再現する「デジタルツインモデル」をクラウド上に構築します。

 このモデルによって、地域の住民の健康・代謝状態が、日常の中でどのように変化しているかという“基盤となるヘルスケアデータ”を構築することができます。さらに追加でいくつかの別の住民グループを作って、異なる健康介入(運動、栄養、入浴など)を行い、その前後でオミックス情報を取得し比較することにより、各介入の効果が身体にどう反映されるのかを客観的に可視化します。

 最終的には、得られたデータを自治体が保有する介護・医療費のデータベースと突合させることで、それぞれの介入がどれだけ健康状態を改善し、医療・介護費の削減に貢献したのかを、医療経済学の研究者とともに定量的に明らかにしていきます。このモデルにより、個人の将来の健康状態の変化と、それに伴う介護・医療費を高精度に予測し、発症前にどのような個別介入をすれば医療・介護コストが抑えられるか提案することができます。今後はこのアプローチを、企業の健康経営、保険商品の設計、さらには自治体のまちづくり政策にも応用し、個と社会の両方で健康を制御最適化していく時代をつくっていきたいと考えています。

――海外展開はお考えですか。

大岡 もちろん考えており、Taomicsのサービスが全世界の医療の基盤になることを目指しています。ただ、私たちが輸出したいのは単なる検査キットやアプリといった“製品”ではなく、”健康管理エコシステム”そのものです。日本は、全成人が毎年健康診断を受け、かつ医療制度とデータインフラが整っているという、世界に類を見ない環境を持っています。ここにオミックス、AI、IoTを融合させることで、予防から治療、そして介護に至るまで、すべてを“個別最適化”できるモデルが日本でこそ成立します。

 このモデルを確立し、標準化した上で、各国の医療体制や文化に応じてローカライズすることで、世界中の人々にも「自分の体の未来を自分でデザインできる」健康社会を提供できると考えています。Taomicsがこれらの取り組みを通して世界最大のオミックス・IoTデータベースを作り上げることで全く新しい医療のパラダイムを提供し、「すべての病気を予防できる社会」、そして「誰もが健康でいられる未来」を実現していきたいと考えています。

――ありがとうございました。

(取材=UNICORN JOURNAL編集部、文=伊藤歩/金融ジャーナリスト)