もっとも、量子電池はまだ原理検証の段階に過ぎません。

今回の研究では量子回路上で単純化したモデルを実証したにとどまり、実際のデバイスに応用するには乗り越えるべき課題が多くあります。

量子状態を長時間安定に保つ技術、大規模な量子系を制御する手法、そして何よりこの量子充電方式を現実の物質系で実装するための新しいアプローチが必要になるでしょう。

研究チームも、「このプロトコルを実際の電池のような実用システムにするには新たな方法が必要で、電動バイクをまばたきする間に充電する未来はまだ先だ」と述べています。

しかし、今回示された完璧な充電の実現性は、量子電池が絵空事ではなく将来のエネルギー事情を変える可能性を十分に秘めていることを物語っています。

化石燃料からクリーンエネルギーへの転換が加速する中、短時間で大量のエネルギーを蓄えられる頑丈な電池はますます重要になります。

その有力な候補として、量子電池という新しい概念が現実味を帯び始めたと言えるでしょう。

今回の成果を足がかりに、量子電池の研究がさらに進展し、私たちの生活に革命的な高速充電技術をもたらす日が来るかもしれません。

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元論文

Quick charging of a quantum battery with superposed trajectories
https://doi.org/10.1103/PhysRevResearch.6.023136

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部