このように夢のある予測が相次ぐ中、世界中の研究者が量子電池の実現に向けた課題に取り組んでいます。

こうした背景の中、今回紹介する研究は、量子力学のもう一つの奇妙な性質である「量子の重ね合わせ(スーパーポジション)」に着目しました。

重ね合わせとは、一つの粒子が同時に二つ以上の状態や場所に存在できる現象です。

研究チームは「量子電池を文字通り“2か所に同時に存在”させて充電したらどうなるか?」という斬新な発想で、充電の高速化につながるかを理論的に検証しました。

この量子電池の重ね合わせ充電法によって、これまで不可能だった完璧な充電効率が実現できるのではないか、というのが研究の目的でした。

2つの世界線の重なりから1つの電池に充電する

2つの世界線の重なりから1つの電池に充電する
2つの世界線の重なりから1つの電池に充電する / 図は「量子ビット(電池)が二つの経路を同時に取ったとき、充電プロセスがどう見えるか」を二通りに描き分けています。パネル A では、ビームスプリッターを通過した量子ビットの波動が左右に完全に分かれ、離れた位置に置かれた二つの小さなキャビティへ同時に侵入します。画面の左右端に独立した充電器が配置されているため、量子ビットが本当に「空間的に二分身した」かのような距離感が強調され、世界線AとBが物理的に離れた場所で並行して充電しているイメージが直感的に伝わります。いっぽうパネル B ではキャビティ自体は一つだけで、その外壁に二つの入口が設けられています。量子ビットは同じビームスプリッターで分岐した後、ひとつの共通空間にあるキャビティに別々のドアから同時に入るので、「二つの場所」というよりは「ひとつの空間に二方向から同時訪問して干渉する」構図になります。結果として A は“遠く離れた二地点を跨ぐ分身”、B は“同一地点を複数経路で貫く分身”という違いになります。/Credit:Quick charging of a quantum battery with superposed trajectories