●この記事のポイント ・世界クラウド市場1位のAWS、シェアが低下し30%を割り込んだ ・ChatGPTの技術やCopilotを持つマイクロソフトのAzureのシェアが拡大 ・市場シェアの変化が生じている理由は何なのか、マイクロソフトがAWSを逆転する可能性はあるのか

 世界のクラウドサービス市場で不動のシェアトップに君臨してきた米Amazon Web Services(アマゾン ウェブ サービス:AWS)だが、昨年頃からじわじわとシェアが低下し始め、米調査会社シナジー・リサーチ・グループの調査・発表によれば、今年1~3月のシェアが30%を割り込んだという。一方でシェアを拡大させているのが、「Microsoft Azure」を展開するマイクロソフトだ。OpenAIのChatGPTの技術を導入し、また独自のAIアシスタント「Microsoft 365 Copilot」を提供しているマイクロソフトが、クラウドサービスにも生成AIを積極的に導入する動きをみせていることが要因ともいわれている。こうした市場シェアの変化が生じている理由は何なのか。また、マイクロソフトがAWSを逆転する可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

●目次

Azureのシェアが増えている背景

 世界のクラウド市場では、1位のAWS、2位のマイクロソフト、3位の「Google Cloud」を展開するグーグルが3強となっており、ここ数年は各社の市場シェアはそれぞれ概ね30%台、20%台、10%台で推移してきた。下位2社の追い上げは勢いづいており、グーグルは今月、クラウドサービスを運営するデータセンター内の機器で使用するとみられるAI向け半導体・TPU(Tensor Processing Unit)の第7世代「Ironwood」を発表。性能向上に加えて大幅な電力効率の向上がなされ、24年に発表された第6世代TPU「Trillium 」と比較して2倍の消費電力あたりのパフォーマンスを発揮するとして注目された。

 AWSのシェア低下の理由は何なのか。クラウドエンジニアのI氏はいう。

「現場で働いているエンジニア目線でいうと、クラウド業界の先駆者的なポジションにAWSがいて、今までずっと市場をリードしてきたこともあり、AWSを扱えるエンジニアの数が多く、現在でも増え続けています。そしてAWSエンジニアも比較や勉強のために他のクラウドサービスを調べたり使ってみたりするので、そうなると必然的に2番手のAzureが使われやすくなります。AWSとAzureの大きな違いは、バックグラウンドとして多くの企業がマイクロソフトの製品をすでに導入しているという点です。つまりAzureは企業の既存システムとの相性が良いのに加え、既存のマイクロソフト関連の契約があるとAzureのライセンス料を比較的低価格に抑えることができるという点が、徐々にAzureのシェアが増えている背景としてはあるのかなと思います」

 AWSとAzureの違いは、どのような部分にあるのか。

「マイクロソフトの製品を使ってシステムを構築している企業の場合、アクティブディレクトリやユーザー作成などの面でAzureとの連携がしやすいというのは、Azureの一つのメリットです。一方、AWSを使う上での最大のメリットは、やはりナレッジが非常に豊富にあるという点です。これまでクラウド業界をリードしてきたがゆえにAWSエンジニアの数も世界で多いので、あらゆる検証済の技術が存在しており、新しく何かをやろうとした際にハードルが低いです。とはいえ、現状ではAWSでできることの大半はAzureでもできるので、技術的にものすごく大きな差というのは、あまりない気がします」(I氏)