人材教育と効率化の両立を目指す
――「生成型AI課長」導入によって期待される効果は何でしょうか。
村上部長 営業時間を確保できるという効果を見込んでいます。支店に集まることで生まれる移動時間のロスがなくなり、本人や上司がその時間を他に使えるようになると期待しています。また、指導のレベルの均一化が図れます。ロープレ(ロールプレイング)は、評価者によって指導や表現の仕方が変わってしまうことが多々あります。
根底では同じことを言っているにもかかわらず、伝え方が違うと受け取る側が迷ってしまうことがあります。しかし「生成型AI課長」をベースに置けば、あらかじめ指導のポイントをAIに学ばせているので、そのルールに沿った指導がされます。また、評価がデータとして蓄積されていくので、上司は後からロープレの実施内容を詳細に確認して、さらに細かな指導も可能になります。他の訓練事例もデータとして残っているので、適切な話法のナレッジシェアにも活かせます。
――節約できた時間を社員はどのように有効活用するのでしょうか。
村上部長 商談をするために資料を準備したりお客様と面談したりと、日常的にしなければいけないことがたくさんありますが、今は働き方改革で弊社も使える時間が減っています。事前準備もしっかりしてお客様が望んでいるものを提供していこうと思うと、極力そこにしっかり時間を使って準備をして向かわなければいけません。
そのため、営業に求められる一般的なお客様とのコミュニケーションスキルの訓練は生成AIの力を借りて効率的に実施し、時間が節約できたのであれば、実際のお客様への提供価値の向上につながればと思っています。もちろん上司から部下への指導機会を減らすということではありません。
段階的に機能実装、課題解決とAI活用の拡大へ
――現場からのフィードバックは、どのように行っていますか。
村上部長 ローンチ前にPoC(概念実証)を2カ月実施してきたのですが、全国で19支店を選抜して直接、私が伺って支店長に説明をしました。実際に使ってみると、地域によってお客様の性格的な特徴も都心部と地方とはかなり違ってくるのもあり、そこに寄せていく作業を一緒にやりながら理解を求めてきました。
現場の方からは「今まで1つの言い方でしか対応できなかったものが、いろいろ繰り返して練習したことで、他の人の話法も目にする機会があって話す幅が広がった結果、お客様と円滑に会話ができるようになった」という嬉しい声は聞いています。
やはり使っていただいて本当に効果があるかは、お客様の反応が良くなったということでしか測れないので、効果を感じるまで使っていただくためには、いろいろ工夫が必要だろうと感じています。
――顧客の満足度を上げていくためのサイクルは。
村上部長 お客様の満足度を上げるためには、営業担当者が各段階でお客様にとって有益な存在になるような適切な接し方が重要になってくると思います。そのため、生成AIには実際のお客様の応対をよりリアルに再現させることに拘っています。
営業担当の発言に対するAIの返答は、感情評価に基づいて生成されます。感情評価の結果とその理由が可視化されるので、そこにおかしな判定があればAIにチューニングを加えて、応対の精度を向上させています。
そのチューニングに力を注いだ結果、現在では概ね適切に反応するところまで来たので、全国展開に踏み切りました。日常の練習をしていく中で、担当者がフィードバックをくれる仕組みもあります。それを検証してAIの判断基準に足りないものがあれば追加していき、辞書として参照させるべきものが必要であればそれを用意していくということを繰り返していくことで、精度はさらに高まっていくと考えています。
――「生成型AI課長」の開発プロセスと工夫・苦労した点は。
芦野次長 全支店一斉に公開するのではなく、まずは一部の支店で利用してもらいそのフィードバックから、改善開発を実施し全支店に展開するという段取りで進めてきました。今後は表情の解析・評価を導入する予定になっています。
苦労した点は、表情や感情解析です。解析で定量化するのも難しいですが、生成型AIそのものの反応や処理の速度が遅く、その改善がシステム的な課題の1つです。言葉の解析と表情の解析を同時に行わなければならず、レイテンシー発生の原因になっています。言葉と表情の解析処理を効率的に分散化するなど、速度改善を図っていきたいと考えています。
――このほかに貴社として取り組んでいるAIやITの活用について教えてください。
芦野次長 今回の営業職種が使っているAI課長は社内で評判が良く、工事職種や設計職種からも同じようなものが開発できないかという声が上がっています。また、ChatGPTを活用したAIチャットボットを開発し、さまざまな業務で利用しています。例えば災害対応や、営業職種の業務的な問い合せなどに利用しています。その他、当社グループではAIを取り入れた数多くの業務変革を推進しています。
(文=Takuya Nagata/作家、社会開発家、テクノロジー・エキスパート)