柏屋氏はそのように実験の苦労を語っています。

特にこの工程では光が当たると金を溶かしてしまうシアン化物が発生したため、暗闇の中で行う必要がありました。こうした様々な苦労の果てに、チームは「Ti 3 AuC 2」の金を溶かさず、チタン化合物だけを除去することに成功したのです。

しかし邪魔な物質を除去して、金の層だけを取り出せても、先程述べた通り、金の2次元シートは丸まってしまうという問題が残ります。

そこでチームは、村上試薬に界面活性剤を添加しました。これにより取り出した金の2次元シートが丸まるのを防ぎ、安定させることに成功したのです。

原子1個分の厚みしかない金シート「ゴールディン」
原子1個分の厚みしかない金シート「ゴールディン」 / Credit:Shun Kashiwaya(Linköping University)et al., Nature Synthesis(2024)

こうして彼らは最初の偶然とその後の試行錯誤の末、金の原子1個分の厚さしかない2次元シート「ゴールディン」の単離に世界で初めて成功したのです。

ゴールディンは金箔の500分の1ほどの厚さであり、目で見ることはできないサイズのものですが超極薄の「究極の金箔」と言えるでしょう。

では、そんなゴールディンにはどのようなことが期待されるのでしょうか。

ゴールディンの特性に関してはまだ未解明な部分が多いものの、柏屋氏によると、水素を生成する触媒としての可能性や、従来の金よりも高い電気伝導性などが期待されるという。

さらにゴールディンが非常に薄いことを利用して、貴重な金の使用量を大幅に削減できる可能性があります。

今後、究極の金箔であるゴールディンが様々な場面で活躍していくのを見ることになるかもしれません。

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参考文献

A single atom layer of gold – LiU researchers create goldene
https://liu.se/en/news-item/ett-atomlager-guld-liu-forskare-skapar-gulden