●この記事のポイント ・米OpenAIが米グーグルのウェブブラウザ「Chrome」事業の買収を検討していることが判明し、その成り行きが注目されている ・インターネットの入り口としてのクロームが、OpenAIの戦略上、価値が高い ・もし仮に実現すれば、OpenAIはChatGPTを標準の検索エンジンのような位置づけにする可能性
米OpenAIが米グーグルのウェブブラウザ「Chrome(クローム)」事業の買収を検討していることが判明し、その成り行きが注目されている。昨年8月に米連邦地裁がグーグルが反トラスト法に違反しているとの一審判決を出し、先月(4月)から再び裁判の審理が行われており、司法省はグーグルに対してクローム事業の売却を要求している。その審理のなかで出廷したOpenAIの幹部が、クローム事業の買収に興味を持っていること、そして過去にグーグルに対して検索技術に関する協業を持ち掛けたが合意に至らなかったことを明かした。OpenAIがクローム事業の取得を狙っている理由は何なのか。また、もし仮にOpenAIがクローム事業を取得した場合、どのように技術開発・ビジネスに活用していく可能性があると考えられるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
圧倒的に大きな規模のチャネルを手に入れられる
世界のウェブブラウザ市場におけるクロームのシェアは6割を超えており、司法省は独占状態にあるためグーグルはクローム事業を売却すべきだと主張している。一方、グーグルは、クロームは自社の他のサービス・ハードウェアと密接に結びついているため、分離すると消費者の利便性が損なわれると主張し、反対している。
生成AIモデル・ChatGPTの開発元であるOpenAIが、クローム事業の買収に興味を持っている理由は何なのか。エッジAIプラットフォーム「Actcast(アクトキャスト)」を提供するIdein株式会社の中村晃一CEOはいう。
「ChatGPTは基本的にはブラウザベースで使うものなので、まず圧倒的に大きな規模のチャネルを手に入れられるという点があげられます。生成AIの普及で従来のウェブ体験が再定義されるという言説が最近、盛り上がっていますが、どういうことかというと、ウェブサービスの画面みたいなものがなくなって、基本的にはユーザは直接AIエージェントに問い合わせて、AIエージェントからサービスの機能やデータを持つMCPサーバーにダイレクトにアクセスするかたちになるという見方です。もし仮にOpenAIがクロームを取得すると、これが現実的に広がり、ブラウザをメインとする従来のウェブ体験そのものが刷新される可能性はあるかもしれません。ですので、インターネットの入り口としてのクロームが、OpenAIの戦略上、価値が高いのでしょう」
では、仮にOpenAIがクロームを取得した場合、どのような活用・取り組みを進めると予想されるか。
「まず、クロームに標準搭載されているグーグルの検索エンジンをChatGPT独自の技術に入れ替えるといったことを進め、将来的にはクロームでのすべての検索についてChatGPTを通過させるようにするでしょう。要するにChatGPTを標準の検索エンジンのような位置づけにするということです。ブラウザというのは日々、膨大な量の情報を扱っており、そのデータにOpenAIはアクセスしたいでしょうから、例えばブラウザにAIアシスタントみたいなものを標準搭載して、ユーザがブラウザで見ている内容をサマリー・解説して返すとか、すぐにグラフを作成して表示させるといった、新しいユーザ体験をつくるかもしれません。こうしたサイクルによって、OpenAIとしてはChatGPTのユーザが増えますし、大量のデータも手に入れられる。そういう仕掛けを狙っているのかなと思います」(中村氏)