このときの計算によると、スパッタリングによって火星から失われたアルゴンの量は、従来の予測の4.4倍以上にも達していました。

さらに酸素や二酸化炭素など他の成分にも同様の影響があったと考えられます。

これらの結果は、火星の大気が過去にどのようにして失われたのか、そしてそれが水の喪失につながったのかを理解する上で、極めて重要な証拠となるのです。

火星がかつて“青い惑星”だった可能性は、多くの科学者の夢と関心を引きつけてきました。

そして今回の研究は、その夢を現実的なストーリーへと一歩近づけました。

スパッタリングは、決して劇的ではありません。

しかし何億年というタイムスケールの中で、太陽風という侵略者が、火星の大気と水を静かに、確実に奪っていったのです。

私たちは今、火星がどのようにして現在の姿に変わったのか、その「消失の歴史」をようやく語り始めることができる段階に来ています。

その物語は、地球の未来についても、何かを教えてくれるのかもしれません。

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参考文献

Scientists Have Clear Evidence of Martian Atmosphere ‘Sputtering’
https://www.sciencealert.com/scientists-have-clear-evidence-of-martian-atmosphere-sputtering

元論文

First direct observations of atmospheric sputtering at Mars
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adt1538

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部