●この記事のポイント ・産学官を横断する一般社団法人スマートビルディング共創機構が発足。それに先立つ設立準備会レベルでの参加企業・団体は115社に上る ・スマートビルに関わる人材育成や協調領域の整備による技術標準化等を推進し、データの利活用とDXを促進する新たな産業を創出・振興させる役割を担いながら、国内はもとより世界をリードする存在を目指す ・ビルに暮らし集い働く人々のより快適で安全安心な人間中心かつ持続可能な社会実現のために、サイバーとフィジカルをデジタルでつなぎ、人々の行動に寄り添ったデータの利活用が出来る建物の高度化を促し、好循環と新たな価値を提供し続ける

 政府が掲げる「Society 5.0」や「デジタル田園都市国家構想」を背景に、従来のアナログなビル管理を脱却し、ICTと建物運用を融合した次世代都市インフラ整備が急務となる中、産学官を横断する一般社団法人スマートビルディング共創機構が発足した。同機構は「人間中心かつ持続可能な社会」の実現を目指して、安全・快適性の確保、エネルギー管理、環境保全、地域の災害対応までを視野に入れたスマートビル標準の策定に挑む、前例のない共創プラットフォーム。注目されているのが、業界横断的に参画するメンバーの多さだ。森ビル、日立製作所、ソフトバンク、大成建設など12社が名を連ねる発起人会により設立され、設立準備会の段階での参加企業・団体は115社に上る。どのような活動を展開していこうとしているのか。同機構の事務局に取材した。

●目次

企業、大学、官公庁との連携を深化

――一般社団法人スマートビルディング共創機構の設立背景や今後の取り組みについて、3月27日にIPA(独立行政法人情報処理推進機構)のDACD(デジタルアーキテクチャ・デザインセンター)が主催する「スマートビルディング・カンファレンス2025」でご講演された島田太久哉さん(IPA・DADCスマートビルプロジェクトリーダー)にお伺いしました。

「IPA・DACDでは、スマートビルの普及促進する活動をおこなっています。その活動を産学官連携で進めてゆく為には母体となる団体の存在が不可欠であるという趣旨でこのスマートビルディング共創機構の立ち上げを支援してきました。目指すのは、単なる最新設備の導入ではなく、建物そのものに情報活用の仕組みを取り入れ、多くの人が快適かつ安全に利用できる環境を実現することです。環境保全・人口動態の変化、働き方の変革など、現代社会の課題に柔軟に対応すべく、従来の枠組みにとらわれない新たな発想でこの活動に取り組んでおります。今後、スマートビルディング共創機構が起点となって企業、大学、官公庁との連携を深め、斬新なビジネスモデルやサービスが創出されてゆくことを期待しています」

――設立の動機やその経緯について、具体的にご説明いただけますか。

「団体設立の背景には、サイロ化したビルの仕様や管理体制への懸念があります。社会全体でデジタル化が進む中、伝統的な運用方式では対応しきれない課題が生じていました。特に、各産業で効率化や透明性を高める動きが加速する中、『協調領域に基づくビル管理の仕組みを』という民間からの要望がきっかけとなりました。IPAの初期活動やインキュベーションラボを経て、複数の有識者会議が実施され、産官学の壁を越えた協力体制が求められていました。その結果、2024年1月に設立準備会が発足し、参加企業・団体は当初の23社から115社以上へと急拡大しました。昨年末の発起人会を受け、2025年4月2日の登記や6月上旬の設立総会に向けた準備が順調に進んでいます。この一連の動きは、単なる最新技術の導入を超え、社会全体で新たな価値を生む挑戦として評価されています」

――『スマートビルディングが当たり前の世界』への理念やビジョンについてお聞かせください。

「私たちが追求しているのは、最新鋭の設備に依存するのではなく、情報技術を活用して利用者に安全で快適な体験を提供することです。エネルギー効率の向上、省資源化、そして利用者ごとに最適なサービスをデータの共有化により利活用できる仕組みの構築がその根幹となります。利用状況に応じた照明や空調の自動調整、災害時の迅速な情報共有など、さまざまなシステムの連動を目指しています。この新団体では、関係各社が連携・協力しあい、そのためのガイドラインや認証制度を具体化して業界全体での新たな協調領域を打ち立てることに邁進してくれるはずです」