中国市場で独自の進化を遂げていく

 中国以外で日本メーカーが中国製のOSやAIを搭載した車を投入する可能性は低いのか。

「アメリカや欧州では中国製のEVに高い関税を課している一方、日本では消費者の中国製品に対する感情的な要因もあり、中国車は先進国マーケットに入りにくいのが現状です。このためしばらくは、中国市場の中で独自の進化を遂げていくという展開が予想されます。ロシアなどへの輸出は増えていますが、アジアでは単なる輸出は受け入れられにくくなっています。例えばタイはEVやHV(ハイブリッド車)に対して補助金や税金の免除といった優遇策を取っていますが、海外メーカーの車についてはタイに工場をつくらないと優遇策が適用されません。

 また、中国メーカーは南米市場でのシェア拡大にも力を入れていますが、2024年12月にはBYDのブラジル工場の建設現場で、労働者が非常に劣悪な環境で働いているとして当局が工事の中止を命じるという事態も起きています。つまり、中国のEVが歓迎されている世界の国や地域は限られており、結果として中国車は中国国内のかなり閉ざされた市場環境のなかで独自の進化を遂げています。

 そういう中国市場で日本のメーカーが戦っていくには、やはり郷に入りては郷に従うことが必要でしょう。AIに関しても、中国語への対応や中国国内の情報を学習するという点で考えれば中国発のディープシークを採用するのは理にかなっています」

 では、日本の自動車メーカーがソフトの技術面で中国勢に劣っているというわけではないということか。

「例えばファーウェイのHarmonyOS(ハーモニーOS)やディープシークに対抗できるほどのOSやAIモデルを日本企業が持っているのかといえば、残念ながら技術的に中国に対してビハインドになってるのは事実だと思います。ですが、日本のメーカーがOSやAI技術を自社に搭載するとしたら、欧米製の技術を搭載するのが自然であり、中国専用車に中国製のOSやAIモデルを搭載するのは、やはり中国市場向け、という特殊事情が大きいと考えられます」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=鶴原吉郎/オートインサイト代表)