一方で多世界解釈(MWI)と呼ばれる仮説では「量子の重ね合わせに含まれるあらゆる可能性が現実に実現しており、観測のたびに宇宙がその結果ごとに分岐する」と想定します。
言い換えれば、観測によって波動関数の収縮は起こらず、生じうる全ての結果を包含する無数の並行世界が存在するという大胆な世界観です。
例えばシュレディンガーの猫の思考実験では、生きた猫と死んだ猫がそれぞれ別の世界に実在するとし、干渉実験では光子が両方のスリットを通る可能性も、それぞれの経路を通る可能性も全て起こっている(ただし我々の世界ではその中の1つだけが現れる)と説明します。
これらの解釈はいずれも魅力的ですが、長らく実験的に区別する方法はありませんでした。
なぜなら、どの解釈を採用しても観測される現象自体は同じであり、その背後に何が起こっているかは直接検証できないと考えられてきたからです。
例えば多世界解釈を信じる研究者もコペンハーゲン解釈を信じる研究者も、二重スリット実験で干渉縞が出現する事実自体は等しく認めます。
違うのは、その裏側で粒子に何が起きているかに対する解釈だけでした。
そこで近年、一部の研究者たちは「観測しても量子干渉を壊さない絶妙な測定方法」がないか模索してきました。
ごく微弱な相互作用を利用して粒子の情報をそっと盗み見る「弱測定」と呼ばれるアプローチです。
今回紹介する研究もまさにその一つで、光子が二重スリットを通過するときに起きるごくわずかな変化を捉えることで、各光子がどのように振る舞ったかを探ろうとする試みでした。
具体的には、スリットごとに光子の偏光(波の振動方向)をわずかに回転させる細工を施し、その影響を統計的に測定するという工夫です。
こうすることで、一見すると平均効果が打ち消し合って観測不能な微かな手がかりを蓄積し、干渉パターンを壊さずに光子の経路情報を引き出すことを目指しました。
1つの光子が1つの世界で2つの経路にある
