コンコルド効果の怖さは、投資額が大きいほど「引き返せない」心理が強くなることです。個人の数千円の買い物よりも、企業の数千万円の取引の方が、より深刻な判断ミスを招く可能性があるのです。

感情に左右される企業

近年増加している企業詐欺事件の分析から、興味深い傾向が見えてきます。国民生活センターの2024年報告書によると、法人が被害に遭った詐欺事件の75%で「権威性」や「希少性」といった心理的トリガーが使われていました。

「元外資系コンサル出身」「海外MBA取得」「政府系ファンド出身」といった肩書きを全面に押し出した詐欺師に、上場企業すら騙されているのです。これは行動経済学でいう「ハロー効果」—一つの優れた特徴が全体評価を歪める現象—の典型例です。

論理的には別の業者の方が条件が良いと分かっていても、長年付き合いのある取引先を優遇してしまうことがある。それが人間関係というものなのです。感情が合理性を上回る瞬間は、企業取引でも確実に存在します。

ダニエル・カーネマンは「我々は自分が思うほど合理的ではない」と述べました。相手の心理を理解し、自分自身の判断バイアスを認識することが、真に「合理的」なビジネスの第一歩なのかもしれません。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

22冊目の本を出版しました。

「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)