スウォンジー大学の物理学研究チーム(著者ら)は、この問題に対し鏡を使うというユニークなアプローチで挑みました。

量子真空のゆらぎによる粒子への作用は、その粒子を取り囲む環境(素材や幾何形状)によって変化しうることが理論的に示唆されています。

例えばある研究では、球状の鏡の中心に原子を置くと自発的な光放出が完全に抑制されるとの予測も報告されていました。

著者らはこのヒントに着目し、球面鏡の中心に粒子を配置すればバックアクション雑音も抑制できるのではないかというアイデアを検証しました。

新たに発表された論文では、球面鏡による光学的な構造化環境が粒子の光散乱と情報の流れに与える影響を詳細に解析し、その結果として量子ノイズの劇的な低減が可能になる条件を突き止めたと報告しています。

鏡の中心で量子ノイズが蒸発した──“測れない”から“揺れない”へ

鏡の中心で量子ノイズが蒸発した──“測れない”から“揺れない”へ
鏡の中心で量子ノイズが蒸発した──“測れない”から“揺れない”へ / 中央に球状粒子を配置した曲面鏡から反射された定在光波を示す図。0と1で表される情報の流れがシステムから出力されます。/Credit:Credit: Dr James Bateman

調査にあたってはまず、半球状の球面鏡の内部中心にナノ粒子を置き、外部から鏡の中心へ向けてレーザー光を照射する過程を想定しました。

レーザー光は鏡面で反射して往復することで定在波を形成し、その強度が鏡の中心でちょうど最大となるように調整されています。

この強い光の「お椀」の中に粒子を閉じ込めることで、粒子はあたかも鏡の中心に宙に浮いたように安定化します(光学トラップされます)。

重要なのは、鏡が半球状すなわち空間全体の半分を覆うほど十分に粒子を囲んでいることです。

著者らの理論解析によれば、このような条件が満たされるとき粒子に働く量子バックアクションの強さ(粒子へのランダムな光の反作用力)が大幅に低減し、理論上ほぼゼロにまで抑えられることが分かりました。