しかし、これは、「さあ、早く交渉を始めよう、多くの人々が期待している、バチカンも期待してくれている」といったことを、停戦機運を盛り上げるためにトランプ大統領が書き込んだだけの文章であったことは、文脈からは明らかだった。トランプ大統領ですら、現実的可能性がある、などとは、一言も書いていなかった。盛りたいメディアが、飛びついて盛っただけだった。
ところが、ロシアがバチカンにおける交渉の可能性はないことを表明すると、なぜそのような話題になっていったのかの検証などはなく、全てはトランプ大統領の勘違いだった、という話に戻ることになった。
今度は「複数の関係者の話」として、19日に行われた米露首脳会談直後にトランプ大統領が「私は、ウラジーミルは和平を望んでいないと思う」と述べたといったことを、いかにも大ニュースであるかのように取り上げている。これで「バカなトランプも遂にわかったか」の地点に戻ったということで、無限ループの完成のようである。
メディアも商業ベースで仕事をしており、「盛る」といった操作がなければ、やっていけないことは当然だ。だが学者や評論家層までいっしょになって「盛る」活動だけに専心している様子は、控えめに言って、異様だと感じてしまう。ただし、もちろん「異様だ」というのは、私の主観的な印象であり、少なくともそうした「専門家」の方々が少数派、ということではないのは、よく知っている。
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