彼らは、そのくじ引き券のいくつか(あるいはすべて)を、グループ内の「信頼できると思う人物(受託者)」に渡すことができました。

ルールとして、信頼者から受託者に渡されたくじ引き券は3倍に増やされ、受託者はその一部または全部を信頼者に返すことができる、というものでした。

この実験では、「信頼」は2つの側面から分析されました。

ひとつは「行動としての信頼」— 自分のリスクを取って他者に賭ける行動として、つまり何枚のくじ引き券を他人に渡したかで測定されました。

もうひとつは「期待としての信頼」— 相手が誠実に返してくれるという信念です。これは「10枚すべて渡して30枚になったら、そのうち何枚を返してくれると思うか?」という質問で測定されました。

別の実験では、架空のプロフィールを「(過去は入れず)現在だけの経済状況」に合わせて調整し、参加者に他者の道徳性の評価も求めました。

果たして、結果は…?

貧乏育ちほど信頼されやすかった

データ分析の結果、人々は「過去でも現在でも経済的に恵まれない人々」に対して、行動面ではより大きな信頼を示しました。

しかし「本当に信頼できる」と思われていたのは、現在ではなく「過去に貧しい家庭で育った人」に限られていたのです。

「人々は、誰かの“子ども時代”と“今の状況”を明確に区別していることがわかりました」とローリン氏は語ります。

「一般的に、低所得家庭で育った人はより道徳的で信頼できると見なされていました。

一方で、現在貧しい人に対しては、行動としては信頼を寄せることもあるけれど、その信頼が報われるとは必ずしも信じていなかったのです」

この傾向についてチームは「苦労人=誠実」というステレオタイプ的な考えが働き、「苦労した人は誠実」「困難を乗り越えてきた人は信頼できる」といったイメージが持たれやすくなっていたと指摘します。

逆に、裕福な育ちの人に対しては「特権階級=自己中心的」というバイアスが働き、「努力せずに得をしてきたのでは?」「甘やかされて育ったのでは?」といったネガティブな先入観が働いたとが考えられます。

画像
Credit: canva