「AI検索の急速な普及で、これまで企業がこぞって注力していたインターネット検索におけるSEO対策が無意味になりつつある」――。こんな見方が一部のネット業界で話題になっている。これまでネット検索といえば、グーグルなどのウェブブラウザでキーワード検索するのが主流だったが、ChatGPTやPerplexityなどのAIで検索するという行動が増えている。これによって、ネット検索で自社の情報を検索結果の上位に表示させるためにSEO対策に力を入れてきた企業のなかには、自社サイトへのアクセス=流入数が大きく低下し始めている企業もあるという報告も相次いでいる。今月にはアップルがスマートフォン「iPhone」の検索エンジンに初期設定しているグーグルの検索エンジンを生成AIのサービスに切り替えることを検討していると表明。ChatGPTも検索機能の改善を急速に進めているが、「ネット検索」をめぐる動向はどのように変化していくのか。そして、数年のうちに従来のSEO対策は無意味になり、それに「AI SEO」が取って代わる可能性はあるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

ネット検索とAI検索の間で棲み分け

 サイト流入元に占めるAI検索の比率としては、「1%未満」「数%」などさまざまなデータがあるが、いずれにしても現時点ではネット検索のほうが断然に多い。だが、AI検索の利用が世界的に急増している現状を踏まえれば、数年内に大きく情勢が変わるかもしれないと感じるのは自然だろう。また、現在では例えばグーグルでキーワード検索を行うと、検索結果一覧ページの最上位に「AIによる概要」という要約文が表示されるケースもあり、ユーザがこれを見て満足すれば、そこに表示されたリンクをクリックして別サイトに遷移しなくなるため、サイト運営者にとってはユーザの流入減につながるという問題も生じる。

 数年内にSEO対策が無意味になる可能性はあるのか。AI開発者で東京大学生産技術研究所特任教授の三宅陽一郎氏はいう。

「現時点では、その兆候はまだ大きく出ていないと思います。特に軽い調べものをするような場合は、検索エンジンのほうが速く使いやすいし、実際に使われています。旅行に行きたいときに『どこの旅行会社のサイトがいいかな?』とか『今、東京都でやっている展覧会は何かな?』といったことを探すような軽い検索は、AIに頼む必要はないですし、最先端の情報を知りたいという要求に応えるという意味では、過去の情報を含めて自動的にまとめてしまうAI検索よりも通常のネット検索のほうが適しているでしょう。また、人間にとっては、それが信頼のできるサイトから出ている情報である、ということが、何よりネット上の情報では重要なことになります。AI検索では、まとめた情報の情報リストが掲載されるとはいえ、そういった出典がよりあいまいになってしまいます。

 SEO対策というのは、要は検索結果ページの上位に表示させるということですが、キーワード検索をして結果一覧の一番上のリンクだけを読むことで事足りるタイプの検索では、従来のSEO対策が有効でしょう。一方、複数のリンクをクリックして総合的に情報を集めたいタイプの検索は、AI検索のほうが適しています。検索して多くの情報をまとめて文章を書くようなケースでは、結局AIもたくさんのリンク先の情報を集めてまとめているので、そのような用途の検索がAIに置き換わりつつあります。

 将来的にはネット検索とAI検索の間の棲み分けが生じると考えられます。また、AI検索による情報には、かなりの誤情報が含まれるので、単に情報を知りたいという用途には、あまり向いてないかもしれません。例えば旅行先の観光名所について嘘をつかれると困るので、それだったら普通にネット検索すればよいという話になります。現在のAIには常に情報の補完をするような性質がありますので、古い情報や関連の薄いわずかに関連のあるといった程度の情報でも持って来てしまうのです」