確かにどちらも最もな説明に思えます。
そこで今回の研究では、その両者のうち、どちらが本当に影響しているのかを検証するために、ユニークな対象集団が選ばれました。
それはインドネシア・パプア州の先住民族「ダニ族(Dani people)」です。

ダニ族の社会では、40年ほど前までは女性が上半身を露出して生活するのが当たり前で、胸が日常的に見える環境が存在していました。
しかし近年では文化的な変化が進み、女性の多くが胸を布で覆うようになっています。
この文化の変化を活用し、研究チームは次の2つの世代の男性を対象に調査を行いました。
1つ目は「女性が胸を露出していた時代に育った中高年男性」、そしてもう1つは「胸を隠すのが当たり前になった現在の若年男性」です。
そしてそれぞれのグループに対して、研究者は通訳を通じて、「異性の胸を見たときに性的に興奮するか?」「性行為中に胸に触れたいと感じるか?」「異性の魅力を判断する際に胸の要素がどれほど重要か」などの質問を行いました。
回答はすべて口頭で行われ、統計的な分析によって世代間の違いが調べられました。
性的興奮の“源泉”は文化か、それとも本能か?
調査の結果、2つの世代間にはほとんど差が見られませんでした。
若い頃に女性の胸を日常的に見ていた中高年男性も、胸を隠す文化で育った若年男性も、いずれも同程度で「女性の胸を見て性的に興奮する」と答えたのです。

また、性行為中に胸に触れる頻度や、パートナーの魅力度を判断する際に胸をどれほど重要視するかについても、世代間の差は見られませんでした。
これらの結果は、「胸が普段隠されているからこそ興奮の対象になる」という従来の文化的説明を否定するものです。
代わりに、胸への性的反応は、文化によって作られたものではなく、人間にあらかじめ備わった進化的な本能に根ざしている可能性があると考えられます。