特に近年では、時間結晶を量子電池に応用できないかというアイデアが研究者の関心を集めています。
量子電池とは量子力学の原理を利用してエネルギーを蓄え・取り出す次世代電池の概念で、従来の電池よりも高速かつ効率的に充放電できる可能性を秘めています。
東京大学が「因果を打ち破って充電」する量子電池を発表
しかし時間結晶を本当にこうした技術に役立てるには、まずその熱力学的性質、すなわちエネルギーの流れや出入りを理解する必要があります。
カロロ准教授は「この技術を活用するために必要な資源とその効率を定量的に把握することが重要です。熱力学を使えば、時間結晶相を維持するために必要なエネルギーや放出される熱量を理解できます」と述べています。
どの程度のエネルギーで時間結晶を維持でき、その過程でどれだけエネルギー損失が生じるのか――そうした情報が得られれば、時間結晶の実用化が本当に現実的で効率的かどうか見極める手助けとなるのです。
以上の背景から、カロロ准教授をはじめとする研究チームは、時間結晶の熱力学的挙動を詳しく調べることにしました。
その際に着目したのが、2つの時間結晶を結合させたシステムです。
当初、研究チームは結合した時間結晶を用いて量子エンジン(量子熱機関)を構成することを想定していましたが、解析を進めるうちに、このモデルはむしろ量子電池の動作を記述するのに適していることが判明しました。
本研究はカロロ准教授が率いる国際共同プロジェクトであり、筆頭著者のパウロ・J・パウリーノ氏(ドイツ・テュービンゲン大学)を含む複数の大学の研究者が参加しています。
彼らは理論モデルと数理的手法を駆使して、「結合時間結晶」がエネルギー貯蔵にどう役立つか、その可能性を探ったのです。
時を刻む結晶がエネルギーを抱え込む

研究チームが描いたイメージは、「止まらない振り子」を二つ用意し、それらを結び付けるというものでした。