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今月16日、英国の最高裁判所が下したある判決が、国内外で大きな議論を呼んでいる。

判決の内容は、法律上の「女性」とは「生物学的に女性であること」を意味する、というものだった。

性の多様性が広がる今、なぜ「生物学的な女性」?

筆者は報道を知って、驚いた。性のあり方が多様化している現在、「女性」や「男性」という言葉の意味は、単に生物学的な性別だけでは語りきれないものになっている。生まれた時の性別と心の性が異なる人(トランスジェンダー)や、特定の性別に強い帰属意識を持たない人など、性の自己認識は多様化している。今回の最高裁の判断は、時代に逆行するものに思えた。

筆者は、トランスジェンダーやそのほかの性的少数派の人々が生きにくい社会になるのではないかと懸念している。また、「生物学上の女性」という定義自体が実は簡単なものではない。近年、スポーツ界で問題視されるようになったことを皆さんはご存じだろうと思う。どこまでが「生物学的な女性」あるいは「男性」と言えるのか。

「性分化疾患」(「性分化の過程で、染色体、性腺、内性器や外性器が多くの人とは異なる型をとる」日本内分泌学会)を持つ人がいることも加味すると、「男か女か」の二者択一でよいのかという疑問もわく。

争点は

この訴訟の原告はスコットランドの女性団体「フォー・ウィメン・スコットランド」。2018年、スコットランド議会が公共機関の理事会において性別のバランスを取る法律を可決した際に、「トランスジェンダー女性」も「女性」としてカウントされたことに異議を唱え、「生物学的な性に基づいた定義が必要だ」と主張した。女性専用の病棟や学校などへのトランスジェンダーの人の立ち入りを認めれば、女性の権利が侵害される、と。

一方、スコットランドの自治政府は、ジェンダー認定証明書を持つトランスジェンダー女性も職場などでの差別を禁じた平等法に基づく保護対象であるとしてきた。