もしジャンプの証拠が見つかれば、私たちの宇宙観は一変します。

そこにはもはや暗黒エネルギー場も隠れた暗黒物質ハローもなく、必要なときにだけ新たな物質を“点滅”させる宇宙が姿を現すでしょう。

逆にジャンプがまったく見つからなければ、暗黒エネルギーと暗黒物質を含む標準モデルの正しさが改めて裏付けられます。

いずれにしても、このようなアイデアを探究し、仮説を検証することこそが科学を前進させる方法です。

リュー博士の「マルチバースト」モデルは、宇宙史を真面目だけれどどこか楽しい発想で描き直す試みです。

風船が一定の力で滑らかに膨らむ代わりに、暗闇の階段を駆け上がるような“スパート”で宇宙が大きくなる――一段一段は暗闇の閃光のように見つけにくいものの、全体としては私たちが観測する広大で構造化された宇宙を造り上げてきた、というわけです。

見えない暗黒物質や暗黒エネルギーを、新種の宇宙イベントに置き換えるこの可能性は、とても刺激的です。

科学に関心を持つ学生や一般の読者にとっても、ビッグバンのような確立したアイデアといえども問い直す余地があることを思い出させてくれます。

宇宙はまだまだ驚きを秘めているかもしれません。

時間特異点という発想は、研究者たちが既成概念にとらわれず宇宙の不思議を解き明かそうとする姿勢の好例なのです。

もしかしたら、次に夜空を見上げるとき、私たちは遠い昔の宇宙“バースト”の余韻を目にしているのかもしれません。

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元論文

Are dark matter and dark energy omnipresent?
https://doi.org/10.1088/1361-6382/adbed1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。