もちろん、この仮説が本当に正しいかどうかは、まだ観測や実証を必要とします。

しかし、「なぜ今まで見つからないのか?」という暗黒物質・暗黒エネルギーの大きな謎に対して、「そもそも常時存在しているわけではないのだから、見つからないのは当然だ」と新しい回答を提示した点は、大きな注目を集めています。

もし今後の観測や理論がこの説を裏付けることになれば、私たちの宇宙観は大きく塗り替えられるかもしれません。

検証可能な“もう一つの宇宙”が描かれる

検証可能な“もう一つの宇宙”が描かれる
検証可能な“もう一つの宇宙”が描かれる / Credit:Canva

このアイデアをわくわくさせるのは、実際に検証できる点です。

突飛に聞こえるかもしれませんが、科学者たちは膨張バーストの証拠を探すことができます。

リュー博士は、遠方銀河から届く光を調べて、過去に起こった膨張の“段差”の痕跡を探る方法を提案しています。

遠くの銀河を見ることは、タイムマシンのように過去をのぞく行為です。

もし昔に起こった膨張ステップが残していった手がかりがあれば、私たちはそれを観測できるかもしれません。

たとえば、異なる距離(=異なる赤方偏移、つまり異なる宇宙時代)にある超新星や銀河を高精度で観測し、その距離と遠ざかる速度の関係が本当に滑らかな曲線を描くかを調べます。

リュー博士の言葉を借りれば、赤方偏移ごとにデータを細かく“スライス”すれば、「ハッブル図に距離と赤方偏移の飛び段(ジャンプ)が見つかるかもしれない」のです――つまり、宇宙の膨張率が急に変わった小さな不連続点が存在するかもしれません。

もしそれが発見されれば、バーストモデルを強く裏付ける「決定的証拠」になります。

したがって、一時的時間特異点の理論は空想話にとどまりません。

検証可能な予測を提示しているのです。

現在運用中、あるいは近い将来の大型望遠鏡が、この階段状膨張のかすかな指紋を探し出すかもしれません。