そして2024年、慶應義塾の相場博明氏と高橋唯氏がこの標本の存在に注目し、標本を借り受けて本格的な研究を始めました。
使用されたのは、最新の高解像度顕微鏡です。

特に翅の翅脈(しみゃく)と呼ばれる翅の筋の構造を精密に観察した結果、オニミスジ属の新種として分類するに至りました。
標本は、兵庫県新温泉町の地層から出土したもので、地質学的には鮮新世から更新世(約280万~220万年前)のものであると推定されています。
特に蝶の化石は翅だけの破片が多い中、今回の標本は前翅・後翅・胸部までが揃っており、頭部こそ欠損しているものの、極めて保存状態の良い貴重な標本です。
約250万年前の新種と判明!世界最大のチョウ化石を「カミタニオニミスジ」と命名!
正体が判明した化石は、発見者である神谷氏への敬意を込めて「Tacola kamitanii(カミタニオニミスジ)」と名付けられました。
そして化石から得られた情報によれば、この蝶は非常に大きく、前翅の長さが推定48mm、開翅の幅はなんと84mmにも達します。

これは現在知られている蝶の化石の中で、世界最大のサイズです。
分類的には、タテハチョウ科イチモンジチョウ亜科に属する「オニミスジ属(Tacola)」に当たります。
この属は現在の日本には生息しておらず、東南アジアの熱帯〜亜熱帯地域に分布しています。
つまり、この化石は過去の日本列島がいかに温暖な環境だったかを示す手がかりとも言えるのです。
研究者たちは、今後この蝶がどのようにして絶滅していったのかを探るとともに、この化石が出土された新温泉町の地層の生態系や昆虫の化石分布をさらに調査する予定です。
今回の研究は、地元の博物館に静かに保管されている「名もない化石」が、実は数百万年の物語を語る宝物かもしれないことを示しています。