現在のJ2リーグを見ると、RB大宮アルディージャやジェフユナイテッド千葉、ベガルタ仙台などかつてJ1に在籍していたチームも多数所属しており、これらのクラブと比べ水戸には経済的な課題がある。レベルの高いJ2リーグで勝ち抜くには、競争力のある選手を揃えるための資金力が必要だが、水戸のような地方クラブは経済面での不利が明白だ。
Jリーグが公表したJ2の2023年度クラブ別人件費を見ると、水戸のトップチーム人件費は3億4,600万円。これに対し、この年J1に昇格した清水エスパルスは22億4,600万円と約7倍の差がある。多額の費用をかけて選手を獲得することのできない水戸のようなクラブにとって、成長を期待される若手選手の活躍が勝利へと直結する体制構築は戦略として非常に効果的で、その実現こそ現在水戸が好調な要因のひとつと言えるだろう。

なぜ水戸に若手選手が集まるのか?
ところで、いくら選手の育成に力を入れているとはいえ優秀な若手選手がチームに集まらなければ意味がない。ではなぜ水戸に多くの若手選手が集まるのか。その答えはクラブの育成システムと明確な哲学、そして育成型期限付き移籍による出場機会の確保にある。
水戸は2018年より『Make Value Project』と題した独自の選手教育プログラムを導入している。このプログラムではメンタルや栄養面などの専門家や企業のビジネスマンなどによる研修が行われ、社会で活躍するための多様な知識とスキルを習得することができる。ビジネスノウハウや人的ネットワークを活用することで、選手たちは現役時代だけでなくセカンドキャリアに向けた基礎力を身につけることができ、「総合的な人間力」の育成にも繋がっている。
競技スキルを磨くだけでなく人間性の成長にも重点を置いたこの取り組みは、水戸が掲げる「人が育ち、クラブが育ち、街が育つ」を具現化したものと言えるだろう。クラブの明確なビジョンとそれを実現するための取り組みこそ若手選手が水戸を選ぶ理由のひとつになっているのではないだろうか。