毛は長くて厚く、鋭い歯と巨大な足を持ち、夜の森を静かに、しかし確実に移動するその姿は、ネズミというよりも小型の哺乳類の王者のような風格さえ感じさせるものでした。

実測では、体長85センチ、体重は最大1.9キロに達していたといいます。
日本人が「ネズミ」と聞いて想像するサイズを遥かに超えた“別格”の存在です。
なぜ見つかりにくいのか?
それにしても、なぜこのような巨大動物がこれまで“野生で見た者がいない”という扱いだったのでしょうか?
理由は、彼らの非常に慎重で隠密なライフスタイルにあります。
まず、マロミス・イスタパンタップは完全な夜行性です。
夜になると静かに木に登り、植物をついばむように食べ、昼間は地中の巣穴や樹上の茂みに隠れて過ごします。
しかもその生息地は、アクセス困難な山岳地帯の奥地—人の足がほとんど踏み入れない霧と急峻な地形の中。
さらに彼らは、他の大型哺乳類との競争相手が少ないこの地域で、数百万年という時間をかけて独自の進化を遂げてきたのです。
ニューギニアの高地では、他の大多数の哺乳類がおらず、ネズミ亜科の齧歯類が“ニッチ”を独占的に活用することで、これほどのサイズに進化することができました。

今回の発見では、ヴェイメルカ氏は映像や写真だけでなく、野生個体の生体計測、糞の分析を通じた食性データ、寄生虫や行動パターンなど、かつて得られなかったあらゆる情報を収集。
調査対象の範囲も広く、全体で61種の哺乳類(齧歯類と有袋類)を同定し、遺伝子解析によって分類を明確にするという成果も挙げました。
その成果は、生物多様性の宝庫であるニューギニアの「未開の山岳地帯」における哺乳類相の輪郭を初めて浮かび上がらせるものであり、マロミス・イスタパンタップはその象徴的存在となったのです。