1959年、旧ソ連ウラル山脈で経験豊富な9人のハイカーが謎の死を遂げた「ディアトロフ峠事件」。雪に閉ざされたホラート・シャフイル山(現地マンシ語で「死の山」を意味するとも言われる)の麓で起きたこの悲劇は65年以上もの間、研究者や歴史家たちの頭を悩ませてきた。そして今、この未解決事件に新たな光を当てようとする仮説が、エカテリンブルクで開かれた年次会議で提唱された。
犠牲者の知人が語る「硝酸暴露説」
この新説を唱えたのは、技術科学の教授であるペトル・バルトロメイ博士だ。驚くべきことに、博士は犠牲となったハイカーたちと面識があり、あわや自身もその遠征に加わるところだったという。
雪崩や脱獄囚の襲撃、秘密兵器の実験といったこれまでの様々な説を一蹴し、バルトロメイ博士が提唱したのは「人工的な現象」、具体的には硝酸への暴露が恐ろしい出来事の引き金になったというものだ。
博士は記者会見で、現場にはハイカー自身の足跡とテントの跡以外、外部からの侵入を示す足跡が一切なかった点を指摘。これは、外部からの干渉ではなく、内部的な、おそらくは化学的な要因が働いたことを示唆すると主張する。さらに雪に残された足跡には何らかの熱的影響が見られたという。
博士によれば、「足跡が残っていたということは、何らかの熱的効果があった可能性を意味します」とのことだ。しかし、彼らが逃げた長距離にわたってこの熱的効果が持続したとは考えにくい。そこで博士が着目したのが硝酸だ。「科学的に見れば、これは表面への硝酸暴露と関連している場合が最も多いのです。比喩的に言えば、雪に塩をまくと濡れて足跡がつき、その後霜で凍結する。これが起こったことに対する唯一の正しい科学的説明です」と、博士は硝酸が関与した可能性を強く示唆した。
バルトロメイ博士は、動物や嵐のような自然現象ではなく、何らかの人工物がその地域で硝酸を生成するような化学反応を引き起こしたと考えている。これが事実であれば、ハイカーたちが感じたかもしれない灼熱感(酸が引き起こす可能性のある症状)、雪に残された熱源を示唆する奇妙な足跡、そして他の人間との争いの兆候がなかった理由を説明できるかもしれない。
