このように、本技術は安全性が要求される自律システムや人と協調するロボットにとってゲームチェンジャーとなり得るでしょう。

もっとも、現在のチップは概念実証段階の単一ピクセルデバイスであり、実用化に向けては課題も残ります。

ワリア教授も「我々のシステムは脳の神経処理の一部を模倣したに過ぎず、現時点ではまだ簡易化されたモデルです」と慎重に述べています。

しかし研究チームはすでに、この単一ピクセルのチップを格子状に多数並べたピクセルアレイへ拡張する研究に着手しており、オーストラリア研究評議会からの助成を受けて開発を進めています。

今後はデバイスの低消費電力化を一層追求しながら、より複雑な実世界の視覚タスクに対応できるよう最適化を図っていく計画です。

さらに研究チームは、今回用いたMoS₂以外にも材料の可能性を模索しており、将来は赤外線領域で動作するデバイスや有毒ガス・病原体のリアルタイム検知といった応用も検討しています。

ワリア教授は「私たちの技術は従来のコンピューティングを置き換えるのではなく、補完するものだと考えています。従来型のシステムにも得意な処理は多くありますが、私たちのニューロモルフィック技術はエネルギー効率やリアルタイム性が決定的に重要な視覚処理の場面で優位性を発揮できます」と述べています。

従来型のシステムが自動運転の5感的なものを担うとしたら、脳型チップはそれにプラスアルファとなる第6の処理システムとなれるわけです。

もしデータを学習することで進化するAIと人間の脳のように疑似的な神経回路を持つ脳型チップを組合わせることができれば、より高度な機械知性を想像できるかもしれません。

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元論文

Photoactive Monolayer MoS2 for Spiking Neural Networks Enabled Machine Vision Applications
https://doi.org/10.1002/admt.202401677