オーストラリアのロイヤルメルボルン工科大学(RMIT)で行われた研究によって、人間の「目」と「脳」と「記憶装置」を同時に肩代わりし、振られた手の動きを一瞬で検知して省エネで判断する――そんな“脳型チップ”が誕生しました。

この小さなデバイスはまるで自身で判断して記憶するように、外部コンピューターの支援を最小限に抑えながら周囲の動きを検知し、スパイク信号と簡易的なメモリ機能を併せ持つ点が特徴です。

AIは人間の脳をある種のシミュレーション空間で模倣しますが、このチップは物理世界で人間の脳を模倣します。

目と脳が一体化したような新しいアーキテクチャにより、従来は困難だった瞬時の映像処理が可能になり、自動運転車やロボットなど次世代技術への応用が期待されています。

現在研究者たちはこのチップを多数備えて処理能力の巨大化を進めているとのこと。

脳のような動きをするチップは、私たちの未来をどのように変えるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年4月23日に『Advanced Materials Technologies』にて発表されました。

目次

  • なぜ『脳型ビジョン』が必要か?
  • 視る・考える・覚えるを1チップで
  • 自動運転の『第六感』へ――応用と課題

なぜ『脳型ビジョン』が必要か?

なぜ『脳型ビジョン』が必要か?
なぜ『脳型ビジョン』が必要か? / Credit:clip studio . 川勝康弘

私たちの脳は視覚情報を効率的に処理し、必要なことだけを素早く判断します。

これに対して従来のデジタルカメラやコンピューターでは、映像をコマ送り(フレームごと)に取得し、大量のデータを逐次処理していました。

データ量が膨大になるほど処理に時間と電力を要し、リアルタイムに判断することが難しくなります。

この問題を解決するために登場したのがニューロモルフィック・ビジョンと呼ばれる技術です。

ニューロモルフィック(神経模倣)とは脳神経の働きを模倣するという意味で、人間の脳のようなアナログ信号処理を用いることで、従来のデジタル方式よりもはるかに省エネルギーで高度な視覚情報処理を実現しようとする試みです。