しかし赤ちゃんザルの方は、母親から引き離されて母乳が飲めないので、数日後にはほぼ必ず命を落としていたようです。

なぜジョーカーたちは特に利益もなさそうな「誘拐」をしていたのでしょうか?

オマキザルたちが「誘拐」を始めた理由とは?

今回の発見は、オマキザルが他種の赤ちゃんを繰り返し誘拐・運搬するという「社会的流行」を記録した世界初のケースだといいます。

ただ詳細に観察を進めても、オマキザルのオスたちに誘拐するメリットは何もないように見えました。

しかしゴールドスボロウ氏らは、ある一つの感情から誘拐が始まったのではないかと推測しています。

それは「退屈」です。

最初に言いましたように、ヒカロン島のオマキザルは、ナッツや貝などの硬い食べ物を割るために石器を使うという独自の文化を発達させています。

ただ興味深いのは、ヒカロン島で道具を使うオマキザルはオスだけであるという点です。

実はオマキザルのオスたちが道具の使用を発明したのも「退屈な島暮らしが要因である可能性」が指摘されていました。

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誘拐をした5頭のオマキザルと誘拐した時期(一番上がジョーカー)/ Credit: Zoë Goldsborough et al., Current Biology(2025)

同チームのマーガレット・クルーフット(Margaret Crofoot)氏はこう指摘します。

「ヒカロン島は、オマキザルのオスにとって生きることが非常に容易な環境です。

天敵もおらず、競争相手も少ない。だから彼らには時間があり、やることがないのです。

この贅沢な環境が、社会性の高い彼らにとって新しい行動を生み出す舞台となったのでしょう」

つまり、退屈な生活環境の中で暇つぶしのために石を弄んでいたら、それが道具として使えることに気付いたというわけです。

そして今回の誘拐も同じく、退屈しのぎの遊びとしてホエザルの赤ちゃんを誘拐し始めた可能性があるといいます。