身近な例としては、天然ガスのメタンを氷状に閉じ込めた「メタンハイドレート(燃える氷)」が同じ仲間にあたります。

セミクラスレートハイドレートの場合、水のかご構造にイオン性の分子が一部組み込まれており、室温付近の大気圧でも安定に存在できるのが特徴です。

研究チームはこの「氷の分子カゴ」に注目し、「これを温度差発電に使えないか」と新たな試みに挑戦しました。

“ゆらぎ”を電気に変える発想の転換

“ゆらぎ”を電気に変える発想の転換
“ゆらぎ”を電気に変える発想の転換 / 試作した熱電変換デバイスによる発電実験の模式図です。 昼間(左)と夜間(右)で電解液中の状態が変化し、電極間に電流が流れる仕組みを示しています。 昼(暖かい側)では溶液中に電解質が均一に溶けていますが、夜(冷たい側)になると片方の電極周辺でセミクラスレートハイドレート(青い多面体状の構造)が生成し、溶液中のイオンバランスが変化します。 この変化によって電位差が大きく生じ、電子が回路を流れて電力を取り出すことができます。 温度が再び上がると結晶は溶け、元の状態に戻って次のサイクルが繰り返されます。/Credit:常温付近の小さな温度変化で発電できる新たな電解液・デバイスを創出 ~IoTセンサーの自立駆動用電源などに応用期待~

今回、電力中央研究所の松井陽平主任研究員と前田有輝主任研究員らは、水にテトラブチルアンモニウムフッ化物(TBAF)という塩を加えた特殊な電解液を開発しました。

この電解液は冷やすと常温付近(およそ10℃前後)でセミクラスレートハイドレートを形成する性質があります。

言い換えれば、ほんの少し温度が下がるだけで、水の中に分子が詰まった小さな氷の結晶(分子カゴ)が現れるのです。

容器にこの電解液を入れ、両端に電極を差し込み、一方を低温(例えば10℃)もう一方を高温(例えば20℃)に保つと、不思議なことに回路に電圧が生じました。

温度差をつけないときには電圧はゼロですが、片側が冷えてセミクラスレートができると電極間に明瞭な電位差が発生したのです。