特に中前頭回では、通常群と比べて約19%も体積が大きくなっており、これは非常に顕著な差といえます。

これらの変化は、週の労働時間が長いほど顕著になる傾向も見られました。

「灰白質の体積が増加している」と聞くと、脳にいい変化が起きているように聞こえるかもしれません。

しかし研究者らによると、決してそうではないようなのです。

脳に良い変化なのか、悪い変化なのか?

さて、脳の灰白質の体積が増えるというと、「なんだか頭が良くなったようで良いことのように聞こえる」と思うかもしれません。

たしかに過去の研究では、学習や訓練で脳のある領域が活性化され、灰白質の体積が増えることも指摘されています。

しかし今回の研究では、必ずしもそう楽観視できる結果ではありません。

研究チームは、この脳の体積増加を「神経適応」の一種と考えています。

つまり灰白質の増加は、過労による慢性的なストレスや睡眠不足に対して、脳が“がんばって適応しようとした結果”にすぎない可能性があるというのです。

実際、これらの脳領域の体積増加は、うつ病や不安障害などでも報告されているパターンと類似しており、メンタルヘルスに悪影響を及ぼしていることを示唆しています。

たとえば、軽度うつ病の患者でも、島皮質や上前頭回に灰白質の異常が見られることがあるのです。

つまり、この“増えた灰白質”は、脳がすでに高ストレス状態にさらされている「黄信号」のようなものかもしれません。

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Credit: canva

週52時間労働というのは、日々の残業や休日出勤を積み重ねれば、あっという間に到達する数字です。

けれども、今回の研究が示すように、それが私たちの脳に“物理的な変化”を引き起こしているかもしれないとなると、話は深刻です。

しかもその変化は、深刻な精神的負荷のサインである可能性があるのです。

働き方を見直すことは、単なる生活改善ではなく、自分の脳を守るための「予防医学」なのかもしれません。