彼が長期停滞の原因としているのは貯蓄過剰である。世界経済も日本経済も貯蓄過剰で低金利になり、そのため物価が上がらないので賃金が上がらず、そのため消費が増えないので物価が上がらない…という「悪い均衡」に陥っているので、政府が財政赤字で「よい均衡」に誘導するという話だ。

4%のインフレ目標で政府債務と年金債務を減らす

これは彼も引用しているクルーグマンの「複数均衡」や、スヴェンソンのフールプルーフ理論と同じ発想で、理論的にはありうる。黒田総裁の政策も、こういう複数均衡を想定していたと思われるが、うまく行かなかった。そこには見落としがあったからだ。

それは国民の予想を変えるには2%では足りないということだ。これはスヴェンソンも指摘し、バーナンキも2.7%がovershootしてもよいと書いたが、今は3%を超えている。「よい均衡」にジャンプするには、少なくとも4%は必要だろう。

それには日銀が「国債はすべて日銀が直接買い取る」と表明することも一案である。これには財政法5条で禁じられた財政ファイナンスだが、財政法を改正しなくても可能だ。政府と日銀のアコードは改正し、インフレ目標を少なくとも4%にする必要がある。

このマイルドなインフレ税で4%のインフレを10年続けることができれば、政府債務も年金債務も実質的に1/3削減できる。年金にはマクロ経済スライドがあるが、今はそれを完全実施していないため約7兆円の過払いになっており、これもinflate awayできる。

インフレ税は政治的には危険な賭け

インフレ税は、政治的には危険なギャンブルである。4%のインフレを国民が容認するのか。日銀が政府債務をマネタイズすることは円の信認を傷つけるので円安になり、インフレが5%、6%…と暴走しても日銀にはコントロールできない。政策金利を上げると元利合計の政府債務が増えて金利が上がり、インフレが加速するおそれもある。