営利企業とNPOの両方のスタンスを取れる
今回の決定には、OpenAIの生き残り戦略的な意味合いもあるという。
「外部企業から多額の出資を受けると、『OpenAIがそれらの会社のものになってしまう』可能性が生じますが、引き続き非営利企業という体制を維持することで、うまくそれを回避したと思います。現在ではグーグルやメタなどのGAFAMも生成AI開発に注力しており、企業規模的には、はるかに小さなOpenAIが、そうした大企業と長期的に対抗して行くには、大企業と真っ向勝負しなくて済む立ち位置を確保し、独自のスタンスを貫くほうが差別化もでき、小さい組織で継続していくための生存戦略もあるでしょう。営利企業であることを完全にやめるわけではなく、営利企業とNPOの両方のスタンスが取れますし、買収されにくいというメリットもあるかと思います。
またノーベル賞受賞者であり現代のAIの立役者であるジェフリー・ヒントンや故ステファン・ホーキング博士に代表されるようなAIの進化への批判と歯止めを行おうとする世論は、これからなおいっそうAI倫理として盛り上がっていきます。そういった世の中の風潮の中で、NPOのスタンスを保ち続けることは、むしろそういった世論の側に立つことを意味します。そうすることで、他の企業には真似できない有利でユニークな立場を確保することにつながります」(三宅氏)
AIの世界におけるオープン化の波も背景にはあるという。
「ソフトウェア開発の世界では、昔から『その一部や全部を世の中に公開するオープン戦略によるコミュニティ開発』と『クローズ戦略を取った営利企業による独自開発』という対照的な図式があります。たとえば、オペレーティングシステム『Linux』に代表されるように『全部オープン化』して広く世の中からコントリビューターを集める文化が90年代から長く存在します。オープンだからといって営利企業がないわけではなく、『Linux』をパッケージングしてサービスを提供する会社は存在します。ライセンス上開示義務を持ちながらも、オープンコミュニティに貢献しつつ。自社の利益を追求することもオープン戦略では可能なのです。Webブラウザー『Firefox』などもその典型です。『オープン・イノベーション開発』『オープン・イノベーション戦略』とも呼ばれます。
そして今、言語AIの世界にもオープン化の波が来ています。オープン戦略は世界中の開発者が自発的に開発してくれるので、オープン戦略に対して営利企業のクローズドな戦略が不利になる場合もあります。なぜならオープンというのはフリー(無料)も意味するので、品質さえよければあっという間にシェアを取ってしまえるからです。問題はメンテナンス性です。そうした情勢のなかで完全に営利企業になるというのは、逆にOpenAIにとってはリスクを取る選択であるわけです。 非営利企業であれば『古いソースは公開しますよ』という決断をしやすいですが、株式会社だと株主をはじめとする多くのステークホルダーとの知的財産権の調整も必要になり、ハードルは高くなってきます。『NPOだから公開するんですよ。公益に資すんですよ』といえるのは、オープン戦略的に非常にいい立ち位置ではあります」(三宅氏)
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=三宅陽一郎/AI開発者、東京大学生産技術研究所特任教授)
提供元・Business Journal
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