米OpenAIは今月5日、営利企業への転換を断念すると発表した。同社は現在、NPOのOpenAI Incが、営利企業であるOpenAI LLCを支配・管理するという特殊な組織構造になっており、2024年12月には、後者をPBC(パブリック・ベネフィット・コーポレーション)と呼ばれる公益重視の営利企業に移行し、NPOの支配下から外す方針を示していたが、営利企業のPBCへの移行は進める一方、引き続きNPOが支配する形態をとることになった。3月にはOpenAIはソフトバンクグループ(SBG)などから400億ドル(約6兆円)の出資を受けることで合意し、OpenAIが年内に営利企業化しない場合は出資額が200億ドルに減額される条項が含まれていたため、OpenAIの営利企業化をめぐる動向が注目されていた。なぜOpenAIは巨額の資金調達をする一方で、非営利企業が営利企業を支配するという形態を維持するのか。その目的や背景について、識者の見解を交えて追ってみたい。
社内に営利企業化を危惧する声
もともとOpenAIは2015年にNPOとして創業。19年から米マイクロソフトから累計約2兆円もの出資を受けたことで一躍、世界的に大きな注目を浴びる存在となり、22年には生成AIの「Chat GPT」を公開。その翌年にはサム・アルトマンCEOがNPOの理事会によって一時解任されるという騒動が起きたが、アルトマン氏が営利企業化を進めることに内部で強い反発があったことが背景にあるとされる。
そして今回、組織全体として完全な営利企業への転換をしないと判断したわけだが、その理由はなんなのか。AI開発者で東京大学生産技術研究所特任教授の三宅陽一郎氏はいう。
「OpenAIはもともと非営利団体として『全人類への奉仕』を旨として立ち上がった組織であり、以前は言語AIだけではなくて、ゲームをはじめさまざまな分野のAIを開発していました。そのなかで言語AIが大きく成長したという経緯があります。GPTも2までは誰もがフリーで使える形でしたが、マイクロソフトなどから資金が入り始めて営利企業化していきました。GPT3以降は明確に有料化していきます。そして今回の決定によって、営利企業と非利益企業の両方からなる体制でやっていくとうことで、一応は筋を通したというかたちではないでしょうか。NPOだからといって収入があってはいけないわけではなく、もともと大規模言語モデルの開発には莫大な予算がかかるために、その資金集めに奔走していたOpenAIは、市場に参入せざるを得なかった、という経緯があります。
もう一つの要因としては、完全に営利企業化してしまうと自社の技術が完全に産業に取り込まれてしまい、それが社会的に負の方向に働いてしまうのではないかという危惧が、同社のなかに社風としてあるかと思います。『持続可能な社会』はAI分野においても懸案事項であり、AIの急速な発展と社会の発展や精度の拡充の歩調を合わせなければなりません。同社内には『AIの安全性をきちんと考慮するべき』という考えがあります。同社が創業されたときの起点は『ノンプロフィットで社会に奉仕する』というところであり、アルトマン自身も人間の総合的知能を超えるようなAGI(人工汎用知能)が普及するかもしれないと言っていますから、NPOを持ち続けることで完全な営利企業化に歯止めをかける自由度を持ち続ける』という決断に見えます」