「こんなものいずれ崩壊する」と、そのリスクを認識していても、「今やめたら出遅れる」「他社が続けている以上、自分たちも止めるわけにはいかない」という空気が金融業界全体を覆っていたのです。

むしろリスクを理解している人たちは、自分はリスクを理解しているわけだから、本気で危なくなったらすぐに手を引けば逃げられると信じていました。

誰もが、ババ抜きの“最後のババ”を自分が引かなければいい、というメンタリティで取引を続けていたのです。

つまり、バブルの恐ろしさは、リスクが見えなくなることではありません。

リスクを知っていても、「今は儲かっているから」という理由で、それを正当化してしまうことにあるのです。

実際、リーマンはリスク管理を軽視しており、リスク管理部門の意見が経営陣に無視されることもあったと報告されています

現場の誰もが危険を感じながら、それでも前に進まなければならなかった。そんな構造の中で、リーマン・ブラザーズは破綻に向かって突き進んでいったのです。

なぜリーマン・ブラザーズだけ破綻したのか?

リーマン・ブラザーズが2008年に破綻したとき、多くの人が驚きました。

なぜなら、その前後で同じように危機に陥った他の巨大金融機関(AIG、シティグループ、メリルリンチ)はいずれも政府の支援や他の銀行による買収によって救われていたからです。

破綻のリスクがあったのは、リーマンだけではなかったはずです。にもかかわらず、なぜリーマンだけが“破綻”したのでしょう?

その背景には、いくつかの要因が絡み合っています。

まず一つ目は、アメリカ政府の「このまま救済を繰り返すわけにはいかない」という空気です。

2008年3月、すでに大手投資銀行のベアー・スターンズが破綻寸前となり、政府の仲介によりJ.P.モルガンに買収されていました。

次に危機が訪れたAIGにも、政府は巨額の資金を投入して事実上の国有化に踏み切りました。しかし、その時点で財務省や連邦準備制度理事会(FRB:米国の実質的な中央銀行)には、「これ以上、政府が救うわけにはいかない」「市場に“責任を取らせる”必要がある」という意見が強まりつつあったのです。