話は少し飛ぶが、英国の国王チャールズ3世の場合、英国の国家元首だけではなく、戴冠式でカンタベリー大司教から油を注がれ、聖霊を受けた瞬間、文字通り、英国国教会の首長という地位を得る。英国では、国王と英国国教会の首長に就任すると自動車免許証だけではなく、旅券も返還することになっている。無国籍者となるのではなく、地上の国籍を超えた存在、という意味合いからだ。

もちろん、3か国のパスポートを有するレオ14世は旅券を法衣の懐に入れて外国訪問することはない。チャールズ国王と同様、14億人の信者の最高指導者のレオ14世には本来、パスポートの有無は問われない。特権というより、その地位の問題だ。ちなみに、レオ14世の略歴によると、彼の母親はスペイン系出身で、父親はフランスとイタリアの血を引いている。

バチカンニュースは9日、「レオ14世はカトリック教会史上最も国際的な教皇だ。彼は教皇庁を知っており、その使命、司牧的配慮、一般の人々の心を知り、司教職を知っており、シノドスの意味も知っている。教皇は今、洗礼を受けた14億人の信者を擁するカトリック教会を導き、戦争や危機、あらゆる種類の課題によって引き裂かれた世界で平和の推進者として行動する任務を担っている」と報じている。

いずれにしても、21世紀の今日、世界最強国の米国で「米国を再び偉大な国に」(MAGA)をキャッチフレーズとするドナルド・トランプ氏が今年1月20日、第47代米大統領に就任した一方、世界最大のキリスト教会派、ローマ・カトリック教会の最高指導者にシカゴ生まれの米国人が今月8日、第267代教皇に選出されたばかりだ。前者の米国人は「米国ファースト」を叫び、後者の米国人は3か国の市民権を有する「真の国際人」と呼ばれている。どちらの米国人が世界の平和と人類の幸福のために貢献したかは後日、明らかになるだろう。

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年5月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。