CO2が地表から放射される赤外線を吸収すると、振動エネルギーが増える。どのくらいの赤外線がCO2によって吸収されるのだろうか。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が議論し、地球温暖化の原因がCO2である根拠とする放射強制力のスペクトルを図1に示す。スペクトルでは大気中のCO2などによる赤外線吸収が上向きに現れていると思えばよい。以下、筆者の専門である分子分光学の知見をもとに、この図を読み解く。

図1 放射強制力のスペクトル出典:天文学辞典(公社日本天文学会)

固体や液体の赤外線吸収スペクトルは、粒子間のさまざまな相互作用のために、吸収幅の広い振動スペクトルになる。一方、空間を自由に運動する気体の分子は、回転しながら振動するので、赤外線吸収スペクトルは吸収幅のとても狭い振動回転線の集合となる。

大気中のCO2の変角振動(約15μm)による赤外線の吸収は、ほとんどがQ-枝とよばれる振動回転線の集合のはずであり、分解能の高い分光器で測定すれば、分子間衝突を考慮して見積もっても、吸収幅は約0.05 μm(= 2cm-1)以下となる。

しかし、図1のスペクトルで、CO2の吸収は13~17μmの範囲だから、吸収幅は約4μm(= 180 cm-1)であり、まるで、大気中のCO2がたくさんの赤外線を吸収しているかのように見える。もしも、分解能の高い分光器で測定すれば、実際には、CO2は図1の1/90(= 2cm-1/180cm-1)の赤外線しか吸収せず、ほとんどの波長の赤外線が宇宙に放射されていることがわかる。

なお、感度が高く、分解能の高い分光器で測定すると、Q-枝の両側にP-枝とR-枝があることがわかるが、それらの赤外線吸収はQ-枝に比べてかなり弱い。また、P-枝とR-枝は振動回転線の間隔が広く、それらの1本1本の振動回転線の間には、CO2によって吸収されない赤外線がたくさんある。

※)中田宗隆「分子科学者がやさしく解説する地球温暖化Q&A 181-熱・温度の正体から解き明かす」丸善出版(2024)。