そして現代でも、人工知能やモノのインターネット化(IoT)の進化に伴い、情報処理の拘束か・大容量化・省電力化が求められており、これにスピントロニクスが役立つと考えられています。

しかし、従来のスピントロニクス材料には大きな課題がありました。

スピントロニクスの中核となるのが、「スピン流(電子の磁気の流れ。電気と違ってエネルギーロスが少ない)」ですが、高効率なスピン流生成のためにプラチナやタングステンといった重金属レアメタルが必要だったことです。

しかし、レアメタルは高価で産出国が限られている上、環境負荷も大きく、今後の持続的なデバイス開発には適さないと考えられてきました。

そこで研究チームは「レアメタルを使わず、なおかつ高性能なスピントロニクス材料を開発する」という野心的な課題に挑みました。

シリコンとアルミニウムで「プラチナ超え」に成功

研究チームが着目したのは、地球上に豊富に存在するシリコンとアルミニウムという身近な材料でした。

通常、これらの元素では効率的なスピン流は発生せず、スピントロニクス材料には不向きとされてきました。

ところが研究チームは、「ナノ傾斜構造」と呼ばれる特殊な構造を設計することで、これらの弱点を克服することに成功しました。

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ナノ傾斜材料の軌道渦によるスピン流と磁気トルク発現の概念図 / Credit:慶應義塾大学

ナノ傾斜構造とは、原子レベルで成分比を徐々に変えた特殊な構造のことであり、性質が連続的に変化する特徴を持ちます。

今回研究チームは、シリコンとアルミニウムをナノメートルスケールで交互に積層し、その組成を徐々に変化させたナノ傾斜材料を開発。

この新しい材料では、材料内部で電子の回転運動が局所的に強化され、これが強力なスピン流を生み出すと分かりました。

この現象は、従来のスピントロニクス理論では考えられなかった「新しいスピン流生成メカニズム」として注目されています。