チームは、アシナガグモの一種である「オオヒメグモ(学名:Parasteatoda tepidariorum)」をモデルに選びました。

このクモは実験室での飼育が比較的容易であり、絹の生産にも適しています。

まずチームは、人工酵素「キャス9」(DNAを切断する機能を持つ酵素)を含む注射液と赤色蛍光タンパク質(mRFP)の遺伝子配列を未受精の雌グモの卵に注入しました。

その後、このメスをオスと交配させることで遺伝子編集された子孫を得ました。

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未授精のメス個体を遺伝子編集し、オス個体を交配させて、遺伝子改変された子孫を得る/ Credit: Edgardo Santiago-Rivera et al., Angewandte Chemie(2025)

注入したmRFP遺伝子は、クモ糸の主要な成分であるタンパク質「MaSp2」の遺伝子に組み込まれました。

その結果、誕生したクモはチームの予想通り、赤く蛍光する糸を分泌したのです。

この赤色蛍光は特殊な光を当てることで簡単に確認でき、CRISPRによるノックイン成功の証となりました。

さらにチームは、このクモの遺伝子解析により、赤色蛍光タンパク質の配列が正しく発現していることを確認し、世界で初めてクモ絹に外来遺伝子を組み込んだことが証明されました。

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赤く蛍光するクモ糸/ Credit: University of Bayreuth – Gene-editing in spiders for the first time(2025)

この成果は、将来的にクモ糸の強度や機能性を自在にコントロールする道を開きます。

これまでの研究で、クモ糸は同じ重量の鋼鉄に比べて5倍強いことがわかっており、医療用縫合糸や防弾素材などの新材料開発への応用が期待されています。

赤く蛍光するクモ糸の具体的な応用例はまだ明確になっていませんが、クモ糸が遺伝子編集可能になったことで、今後、人の役に立つクモ糸を開発できるようになるでしょう。